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医師のともコラム

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医師不足は解消できるのか 国はどのように解決しようとしているのか

医師不足が叫ばれる一方で、「医師余り」や「医師過剰」という言葉も耳にするようになりました。

医師不足と医師余りという真逆の言葉が登場するのは、医師偏在が起きているからです。

つまり、ある領域の医師が増えているのに、別の領域の医師が足りていないというわけです。

 

そして依然として解決できていないのが、医師の長時間労働問題です。

長時間労働は苦しいので、長時間職場からそうではない職場に移りたくなるのは当然で、それも医師偏在、医師不足を深刻化させています。

 

国はこの問題をどのように解決していこうとしているのでしょうか。

医師不足の現状

医師不足の現状を厚生労働省の資料から確認していきます。

2033年には医師不足は解消し、それ以降は余る?

厚生労働省に医師不足問題などを検討する、医師需給分科会があります。

この分科会が作成した資料によると、医師の需給の推計は以下のようになっています。

需給 2014年(実績) 2025年(推測) 2040年(推計)
需要 27.7万~30.0万人 29.2万~31.4万人 29.2万~31.5万人
供給 27.4万人 30.3万人 33.3万人

2014年の実績では、医師需要のほうが大きく、医師供給が少ないので、純粋な医師不足が起きています。

ところが2025年の推計では供給30.3万人に対して需要は29.2万~31.4万人なので、需要が最も楽観的な29.2万人なら、この時点で医師過剰が起きます。

ただ、需要が最も厳しい31.4万人なら、依然として1.1万人(=30.3万人-31.4万人)の医師不足が起きます。

 

そして2040年の推計になると、需要の最も厳しい31.5万人でも、供給は33.3万人なので1.8万人(=33.3万人-31.5万人)の医師過剰が起きます。

もし需要が29.2万人にとどまれば、医師過剰は4.1万人(=33.3万人-29.2万人)となります。

仮にこの4.1万人の医師過剰が47都道府県で均等に発生したら、すべての都道府県で872人(=4.1万人÷47)の医師過剰が起きることになります。

 

医師需給分科会は、医師の需要と供給の均衡は、つまり医師が余りも不足もしない状態は2033年ごろになると予測しています。

では、2033年に医師不足問題は解消され、それ以降は医師が余るのかというと、そう単純な話ではありません。

それが医師の偏在問題です。

 

*3:https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_318654.html

*4:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000120209.pdf

医師の偏在問題とは地域と診療科の問題

医師の偏在とは、医師が多くいる地域・診療科と医師が少ない地域・診療科が発生している現象のことです。

ポイントは、地域と診療科の2つに偏在が起きている点です。

地域的な医師偏在問題

地域的な医師偏在問題というと、都市部に医師が多くいすぎて、地方の医師が足りない、といった状態をイメージするかもしれませんがそうではありません。

 

医師需給分科会によると、都道府県別の人口10万人当たりで医師数が最も多いのは徳島県の315.9人で、最も少ないのは埼玉県の160.1人です。

徳島県の「医師率」は埼玉県の約2倍になります。

 

そして全国平均の240.1人に達していないのは次の22道県です。

人口10万人当たりの医師数が全国平均の240.1人に達していない道県

北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、

茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県、

新潟県、山梨県、長野県、岐阜県、

静岡県、愛知県、

三重県、滋賀県、

宮崎県

 

北海道・東北地方が「全滅」なので、確かに医師偏在問題は地方の問題といえるのですが、関東地方も東京を除くすべてが全国平均以下です。

経済規模が大きい愛知県も全国平均未達です。

 

一方、このなかに中国・四国地方は1県も入っていません。

つまり、すべて全国平均を上回っているわけです。

九州・沖縄地方も全国平均以下は宮崎県だけです。

 

地域的な医師偏在問題は都市部も地方も関係なく、とても特殊な印象を受けます。

診療科の医師偏在問題

診療科の医師偏在問題もかなり顕著に表れていて、医師需給分科会によると1994年から2016年にかけて次のような傾向が確認されています。

診療科の医師偏在問題の傾向(1994年と2016年の比較)

  • 外科医、産科・産婦人科医は増えていない
  • 総数の増加率より増えているのは1位麻酔科医、2位精神科医、3位放射線科医
  • 小児科医と内科医は増えているが、総数の増加率よりは低い増加率にとどまる

 

これは診療科別の医師の数の偏在ですが、医師の労働時間の問題も診療科別に起きています。

医師需給分科会によると週60時間以上働いている病院常勤医師の診療科ごとの割合は次のようになっています。

 

週60時間以上働いている病院常勤医師の診療科ごとの割合ランキング(臨床研修医とその他を除く)

1位 産婦人科医 53.3%

2位 救急科医 47.5%

3位 外科医 46.6%

4位 小児科医 44.6%

5位 内科医 39.9%

6位 麻酔科医 32.9%

7位 放射線科医 28.5%

8位 精神科医 27.5%

 

週60時間労働ということは、週5日勤務とすると1日12時間働いていることになります。

法定労働時間は1日8時間なので、週60時間労働は毎日4時間の時間外労働をしていることになり、一般労働者と比較すると「かなり過酷」な数字といえます。

したがって産婦人科医(1位)、救急科医(2位)、外科医(3位)の約半数は、その過酷な労働下にあることになります。

 

医師数の傾向と労働時間の傾向と合わせると、次のことがわかります。

外科医 産科・産婦人科医 小児科医と内科医 麻酔科医、精神科医、放射線科医
医師数 増えていない 増えていない 増加率が低い 増加率の高さ1、2、3位
労働時間の長さ 3位 1位 4位と5位 6、8、7位

医師数の増加率と労働時間の長さには相関関係がありそうです。

2024年から始まる医師の働き方改革は問題解決につながるか

では国は、医師偏在を含む医師不足にどのように対応していこうとしているのでしょうか。

働き方改革の一環として2024年4月から、医師にも時間外・休日労働の上限規制が適用されます。

医師労働時間短縮計画策定ガイドライン(案)によると一般労働者の上限規制と、2024年4月からの医師の上限規制を比べると次のようになります。

<時間外労働・休日労働の上限規制>

医師(2024年4月から) ●A水準:年960時間、月100時間未満

●B、C水準:年1,860時間、月100時間未満

一般労働者(現行) ●原則:1カ月45時間を超えてはいけない

●例外:年6カ月を限度として、月100時間未満まで認められる。ただし年間720時間以下にしなければならない。

A水準は原則のことで、B水準は、地域の医療提供体制の確保のために暫定的に認められる水準、C水準は、集中的に技能を向上させるために必要な水準となります。

医師にとっても「最も楽」なA水準ですら、時間外・休日労働時間は年960時間まで認められていて、一般労働者の例外の720時間より33%(=[960÷720-1]×100)も長くなっています。

 

時間外・休日労働年960時間とは、どれくらいの労働ボリュームになるのでしょうか。

年120日休むと、年245日出勤することになります。960時間を245日で割ると、約4時間になります。つまり毎日必ず4時間の時間外労働をするわけです。

これが時間外・休日労働年1,860時間になると、毎日必ず7.6時間の時間外労働になります。つまり年120日休むには、毎日法定労働時間(8時間)の2倍働かなければなりません。

 

ただ「時間外・休日労働960時間は楽なほう」と感じる医師もいるでしょう。

厚生労働省は「年間の時間外・休日労働が 1,860 時間を超える勤務医が約1割、また、年間 3,000時間近い時間外・休日労働を行っている勤務医もいる」としています。(*5)

したがって2024年4月からの時間外・休日労働の上限規制は、医師の労働環境の改善に寄与することが期待されます。

時間外労働が規制されて困ること

しかし時間外・休日労働の上限規制がかえって医師偏在を強めてしまう可能性も否定できません。

「労働時間の減少」も「労働者の減少」もどちらも労働力の減少を意味するので、医師の労働時間の減少は、医師の数が減るのと同じです。

そうなると、医師の労働時間が減ると、医師が少ない地域や診療科は「やりくり」することがさらに大変になるはずです。

そのような地域や診療科で「働きたい」と思う医師が増えるとは思えません。

 

慶應義塾大学の土居丈朗教授(経済学)は、医師の労働時間が長くなる要因として、次の5項目を挙げています。(*6)

 

<医師の労働時間が長くなる要因>

  • 救急搬送など診療時間外の患者さんが多くいる
  • 長時間の手術
  • 外来患者さんが多い
  • 医師にはこれらに対応する応召義務がある
  • 医師から他職種への業務の移管が進んでいない

 

時間外・休日労働の上限規制によって医師の労働時間が「本当に減ったら」、救急搬送に対応しきれなくなったり、長時間の手術が減ったり、外来患者さんに対応できなかったりするかもしれないわけです。

医師不足対策としてできること

土居教授は、医師偏在問題や長時間労働問題を含む医師不足を解決する手段として、次のものを挙げています。

 

<医師不足問題を解決する手段>

  • 業務の移管
  • 病院内でのマネジメントの強化
  • 機能分化、連携
  • プライマリー・ケアの充実

 

そもそも医師の負担を減らしたり、忙しい医師の負担を集中的に減らす策が必要なようです。

また厚生労働省は、次のような手段が医師偏在を解消する一助になるだろうとしています。

 

<厚生労働省が考える医師偏在問題対策>

  • 医師確保対策について、都道府県が主体的・実効的に対策を行うことができる体制を整える
  • 医師養成段階で医師の地域定着策を充実させる
  • 地域での外来医療機能の偏在を是正する仕組みをつくる
  • 医師が少ない地域での勤務を促すインセンティブを増やす

 

1)都道府県の努力と、2)医師数が少ない地域・診療科に医師が行きたくなる仕組みが必要である、ということのようです。

まとめ~問題は複雑化している

医師不足問題はかつては「医師がいない」という単純な、ただそれだけに深刻な問題でした。

しかし現在は、医師の地域的、診療科的偏在や長時間労働など、複雑かつ深刻な問題に移行しています。

 

厚生労働省は、現代の医師不足問題を解決するには都道府県の努力が欠かせないとしています。

また、医師数が少ない地域や診療科に医師たちを誘導する仕組みも必要であるとしています。

 

いずれにしても大胆な改革と地道な改善の両方が必要なようです。

 

記事執筆  医療ライター A