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医師のともコラム

COLUMN

大学医局員が医局人事を離れるまでのマニュアル:自体験をもとに

 

2004年の初期臨床研修制度(2年間)の導入後においても、専攻する診療科を決めて、キャリアアップや人脈形成のために大学医局に入局を検討することも多いです。

 

ただ、大学医局員になると、組織から離れることは容易ではありません。

 

同時に、大学医局の人事体制から一歩外に踏み出すことは、医師としてのキャリアにおいて大きな転換点となります。

 

円満な退局とスムーズなキャリアチェンジを実現するために、具体的な経験とコツを、自体験をもとにまとめてみました。

 

退局を決意するまで:内省と情報収集

 

大学医局の人事は4月に大幅な変更があり、その後は7月・10月・1月に小さな異動が生じます。

 

4月の大きな人事決定は1月から2月にはその骨子が決定するため、10月から11月には次年度の意向を決めてから、綿密なリサーチと行動が必要になります。

 

これにあたり、以下のことを再考する必要があります。

 

キャリアプランの再考

 

医局でのキャリアパスが、自身の理想とする医師像・ワークライフバランスに合致しているかを改めて検討します。

 

分岐点となるのは、各科の学会の専門医取得時とその後のキャリア、大学院卒業後の進路、研究へ従事するか、臨床医としてのスキルアップなど、長期的な目標を明確にします。

 

同時にワークライフバランスの重要性を再認識し、自身のライフスタイルに合った働き方を模索します。

 

私は2012年4月に医局を立ち去りましたが、すでに2011年6月には退局を決意しており、それまで自分の人生観や価値観を改めて問い直しておりました。

 

情報収集と客観的評価:

 

まずは、自分の医局の同僚(派遣病院先であれば、そのメンバー)の次年度以降の動向をリサーチすることが重要です。

 

自分が辞めようと思っても、他の同僚や先輩・後輩が先に行動を起こした場合に、医局を離れることが難しくなる可能性があります。

 

次に、医局内のみならず、外の医療機関の情報を転職エージェントなどに相談をしながら、自身の市場価値を客観的に評価します。

 

大事なことは、年収金額よりは自分自身が描いている「未来予想図」「キャリア」にマッチしているかを深く考える必要があります。

 

待遇だけで医療機関を選ぶと、医師の定着率が悪い、いわゆる「ブラック医療機関」のループから抜け出せなくなる恐れも出てきます。

 

また、開業という選択肢を選んだ場合には、開業日の少なくとも1か月前にはフリーでないと円滑な開業が困難となります。

 

家族との相談

 

退局は家族の生活にも影響を与えるため、事前に十分な話し合いが必要です。

 

単身赴任になる、収入の見通し、特に子供の進路への影響なども多く「配偶者ブロック」ということもありえます。

 

経済的な不安やキャリアチェンジへの懸念などもあるため、家族の意見を尊重し理解を得ることが重要です。

 

転職活動

 

転職エージェントを利用し、自身の専門や希望条件に合った求人情報を収集します。

 

自分自身で直接応募をすることも良いでしょう。

 

複数の医療機関を訪問・面接をして医療機関の理念や雰囲気を直接確認します。

 

給与や勤務条件だけでなく、キャリアアップの機会や研修制度なども考えます。

 

また、転職エージェントのスキルや実績も見定めることも大事です。

 

ただ情報を横流しにするのではなく、キャリアに沿った対応をする、クイックレスポンスや代替案などが適切かなども、比較検討してください。

 

私の場合、最終的に1社の大企業と1社の中小企業のエージェントのみに絞りました。

 

退局の準備:円満な退局に向けて

 

退局を決意し、新たなキャリアを歩む揺るがない決意を抱いたら、退局(退職)の意思を伝えていくことになります。

 

退局時期の選定

 

医局の繁忙期、学会シーズンを避け、比較的余裕のある時期を選びます。

 

4月に退職するのであれば、10月ころにはファーストアクションが必要です。

 

退職の意思伝達は、まずは自分の所属上長(病棟医長や研究専門班の上長、派遣病院であれば部長)に了解を得ることです。

 

次に、医局人事を掌握する大学本部の医局長、そして最後は主任教授と面談となります。

 

各医局で退職・退局の取り決めは異なりますので、すでに退局したドクターからの情報収集も重要となります。

 

上司への相談と退局の意思表明

 

上司への相談は、翌日に顔を合わせない金曜日・土曜日(祝日があればその前日)がベターとなります。

 

その休日で双方ともワンクッションを置いて業務に遂行ができるからです。

 

第1関門となる所属上長には、診療業務が終了する夕刻以降に時間をとって、退局の意図を伝えてください。

 

ここでは、退局理由を正直に伝えつつ、医局への感謝の気持ちを伝えることが重要です。

 

ネガティブな理由は言及せず、ポジティブな理由や家庭の事情であれば理解を示してもらえることも多いです。

 

その後の第2関門は医局長、第3関門は主任教授との面談が一般的となります。

 

この2名の面談は事前にアポを取って臨んでください。

 

ここまでの意思表明と承諾は年内には終了させることが重要です。

 

大学医局長・教授との面談は高いハードルになることが多いです。

 

自分の場合は、2011年7月に所属上長との面談のあと、間髪入れずに8月上旬に大学の医局長との面談をしましたが、1回の面談では理解いただけず、かれこれ3回の面談(合計150分)を要しました。

 

そこでは、キャリアや生き方の他、家族は大事に育てられるのか、研究はできなくなり片道切符でも良いかなど、想定以上の質問がされました。

 

第3段階の主任教授との面談も、初めは「頭を冷やしてこい」と頭ごなしに怒られましたが、最終的には「自分の人生は自らが開拓者となって切り開くように」とご理解いただき次のステップに進むことができました。

 

退職手続き、その後の医師のキャリア

 

医局の規定に従い、必要な手続きを漏れなく行います。

 

また、主任教授面談の印象によって、退局しても同窓会員としてつながりを認める場合、完全にその後の関係が絶たれる場合など様々ではあります。

 

狭い医療の世界なので、悪いうわさも尾ひれが付いて拡散する場合もあるため、可能であれば円満退職をめざしてください。

 

先方から「〇〇病院の非常勤を1年やってくれ」「退職の時期を△△に変更してくれ」などという依頼もありますが、極力引き受けた方が後の医師人生を考えると安心です。

 

筆者も円満退職で決着がつき「医局にいたこと」として、開業後の患者紹介がスムーズであったこと、年に1回の県内同窓会の集まりに声がかかること、また、退局後でも同じ医局出身のドクターと懇意にできることなど、メリットは多かったです。

 

また、退局後も、学会や研究会などで医局員と顔を合わせる機会があるため、円満な関係を維持することは医療界では比較的重要視されます。

 

まとめ

 

近年では、大学医局は20年前と比べてリベラルかつ民主的な雰囲気となりましたが、予期せぬ人事異動などは避けて通れない傾向があります。

 

また、医局の人事を離れていくにも、自らが開拓者となってキャリアを形成していくなどの覚悟と、円満退局を目指した根回し・対応が必要となります。

 

 

 

執筆 医師 武井 智昭