医療制度改革、医師の働き方改革、高齢化社会の進展など、医療を取り巻く環境は大きく変化しています。
このような変化に対応し、医師が長く活躍していくためには、自身のキャリアプランをしっかりと描くことが重要です。
本記事では、年代別に医師が直面する課題やキャリアの選択肢、具体的なキャリアプラン設計のポイントを解説します。
30代:専門性を高め、市場価値を高める時期
30代は、医師としての専門性を確立し、市場価値を高めるための重要な時期です。
専門医取得やスキルアップなど、将来のキャリアを見据えた行動を起こしましょう。
専門医取得:キャリアの選択肢を広げる
専門医とは、特定の診療科について、高度な知識と経験を有することを証明する資格です。
専門医を取得することで、キャリアアップや収入アップに繋がる可能性が高まると言われています。
厚生労働省の「医師の資格に関する統計」によると、2022年12月末現在の医師数は37万7,179人で、そのうち専門医資格取得者数は18万3,925人となっています。
専門医資格の取得率は年々増加傾向にあり、医師全体の約48.8%が専門医資格を保有しています。(参照:[厚生労働省|医師の資格に関する統計](https://www.mhlw.go.jp/toukei/saishin/hw/ishi/19/index.html))
専門医資格は、キャリアの選択肢を広げるだけでなく、専門性を活かした診療や研究など、自身の興味関心に基づいたキャリアを歩むための道を開く可能性があります。
スキルアップ:市場価値を高めるための自己投資
医療技術の進歩は目覚ましく、医師には常に最新の知識や技術を習得することが求められます。
また、グローバル化が進む現代においては、語学力の重要性も高まっています。
さらに、チーム医療が推進される中で、コミュニケーション能力やマネジメント能力なども求められています。
医師向け転職サイトの調査によると、転職時に重視されるスキルとしては、「専門知識・スキル」に加えて、「コミュニケーション能力」「問題解決能力」「リーダーシップ」などが上位に挙げられています。
キャリアの選択肢を広げる:病院勤務以外の道
医師のキャリアパスは、病院勤務だけにとどまりません。
近年では、製薬会社、医療機器メーカー、行政機関、医療コンサルティング会社など、病院勤務以外のキャリアを選択する医師も増えています。
製薬会社では、新薬開発における治験や市販後の安全性情報収集などに医師の専門知識が求められています。
医療機器メーカーでは、医療機器の開発や改良、医師への使用方法の指導などに携わります。
行政機関では、医療政策の企画立案や実施、地域医療の推進などに貢献することができます。
病院勤務以外のキャリアを選択する場合には、それぞれの職種に必要なスキルや知識、経験などを事前に理解しておくことが重要です。
40代:キャリアの転換期。マネジメント、リーダーシップを意識する
40代は、医師としてのキャリアの転換期と言えます。
管理職への昇進、ワークライフバランスの見直し、開業、セカンドキャリアの準備など、将来を見据えたキャリアプランを具体的に考える時期です。
専門性を活かしたキャリアアップ:管理職への挑戦
病院経営の高度化、医療の専門分化に伴い、医師にもマネジメント能力やリーダーシップが求められるようになってきています。
科長や部長などの管理職は、診療業務だけでなく、スタッフのマネジメント、予算管理、病院経営への参画など、多岐にわたる業務を担います。
管理職へのキャリアアップを目指す場合は、マネジメント研修への参加や、リーダーシップを学ぶ機会を積極的に設けることが重要です。
自分自身のクリニック:開業という選択肢
長年培ってきた経験や専門知識を活かし、自分の理想とする医療を提供するために、開業を選択肢として考える医師もいるでしょう。
開業医は、地域医療への貢献という大きなやりがいを感じられる一方、経営者としての責任や、経営に関する知識やスキルも求められます。
開業を検討する際には、綿密な事業計画の作成や、資金調達の方法、経営に関するノウハウを習得するための準備が欠かせません。
ワークライフバランスの見直し:プライベートとの両立
40代は、仕事だけでなく、結婚、出産、育児、親の介護など、プライベートにおけるライフイベントが多くなる時期でもあります。
仕事とプライベートの両立が難しくなり、ワークライフバランスを見直す必要が出てくる医師も少なくありません。
ワークライフバランスを実現するためには、時間管理や業務効率化を意識することが重要です。また、配偶者や家族と協力し、家事や育児、介護の負担を分担することも有効です。
セカンドキャリアの準備:将来の選択肢を広げる
医師としての経験を活かせるセカンドキャリアは数多くあります。
セカンドキャリアを成功させるためには、早い段階から情報収集を行い、必要な資格取得やスキルアップなど、準備を進めておくことが大切です。
50代:経験を活かし多様な選択肢を探る
50代は、医師として円熟期を迎え、経験を活かして指導的な立場を任される機会も増えるでしょう。
体力面なども考慮しながら、自身のキャリアプランを見つめ直す時期とも言えます。
これまでのキャリアを活かしながら、より専門性を高める、管理職として組織運営に携わる、地域医療に貢献する、あるいは専門以外の分野に挑戦するなど様々な選択肢が広がっています。
後進の育成:指導医としての役割
医師不足が深刻化する中、若手医師の育成は、日本の医療を支える上で非常に重要な課題となっています。
ベテラン医師は、豊富な経験や知識を活かし、若手医師の指導や教育に積極的に関わることで、医療の質向上に貢献することができます。
特に、医師の働き方改革が推進される中、若手医師の育成は、医療現場全体の効率化や、医師の負担軽減にも繋がると期待されています。
社会貢献活動:地域医療への貢献
高齢化の進展に伴い、在宅医療や訪問診療など、地域医療の重要性はますます高まっています。
これまでの経験を活かして、地域医療の現場で活躍することも、医師としての大きなやりがいに繋がります。
地域医療は、病院医療とは異なるスキルや知識が求められる場面もあり、新たな挑戦の場としても注目されています。
キャリアの転換:新たな挑戦
50代は、セカンドキャリアを見据え、新たな挑戦を始める医師も少なくありません。
これまでの医療現場での経験を活かして医療に間接的に関わる道を選ぶケースもあれば、全く別の分野で起業するなど、これまでのキャリアとは異なる道に進むケースも見られます。
(参考: [日本医師会治験促進センター|シニア医師が活躍できる場とは?](https://www.jmari.med.or.jp/result/working/post-4420/))
ワークライフバランスの再考:自分らしい働き方
50代になると、体力的な変化を感じ始める医師もいるかもしれません。
無理なく長く働き続けるためには、診療の内容、自身の体力や健康状態、ライフスタイルなどを考慮し、ワークライフバランスを見直すことが重要です。
例えば、オペのある科目の場合はオペとのかかわり方を変えたり、非常勤勤務を調整したりするなど、柔軟な働き方を取り入れることで医師としてのキャリアを継続することができます。
60代以降:シニアだからこそ活躍できる選択肢
60代以降も医師として働き続ける方がほとんどだと思います。
長年の経験と知識を生かし貢献できる場があります。
老健施設長:高齢者医療の現場を支える
高齢化社会の進展に伴い、老健施設の需要はますます高まっています。
医師1人体制である施設も多く、医師の退職は施設運営に大きな影響を与えるため、安定して長く勤められる医師が求められています。
施設長は、医師としての専門知識や経験を活かしながら、施設全体のマネジメントを行う重要な役割を担います。
長年培ってきた経験や知識は、患者や家族に安心感を与えることのでき、シニアのキャリアとして適していると言えるでしょう。
キャリアプランは一度決めたら終わりではない。定期的な見直しを
医師のキャリアプランは、ライフステージや社会環境の変化に合わせて、柔軟に見直していくことが重要です。
自分自身の価値観やライフプラン、キャリア目標などを明確にし、周りの人に相談したり、専門家のサポートを受けながら、納得のいくキャリアプランを設計していきましょう。