医師も人間であり、他の職業の人と同様に精神疾患を発症するリスクが存在します。
医学部時代からの多忙な学習や医師国家試験のプレッシャー、その後の医療現場のストレスや過労、キャリアの悩み、不規則な生活などが原因で、精神的な問題を抱える医師も少なくありません。
今回は、医師国家試験や専門医試験の筆記、面談で遭遇した、適応障害など精神疾患を本番で発症した医師のエピソードをご紹介します。
医師はエリートとされているが…
医学部へ入学するには、推薦であれば学業はもちろん、美術・音楽などの芸術、体育、これに加えてクラブ活動などの課外授業で一定の成果を求められます。
この一方で、一般の入学試験では、英語・数学・科学(化学・生物)などでいかにハイスコアをたたき出すかが重要です。
一次試験ではペーパーテストが主体であり、二次試験での面談と小論文まで進まないと、医師の性格や発達障害を含む精神疾患の判別が難しくなります。
医療機関は、常に迅速な決断や対応が求められるため、ミスが許されない現場です。
注意欠如・多動性障害(ADHD)を抱える人にとっては相性が悪い職場のひとつだと言えるかもしれません。
ただ、ADHDや自閉スペクトラム症(ASD)でも学力を維持しうることで、医療現場に携わる方も多くいます。
医学部入学後は多数の試験と実習、そして医療機関の就職活動と医師国家試験をクリアして初期研修医のスタートラインに立てます。
その後、診療科を決定してからその科目の専門医試験(内科専門医試験、小児科専門医試験など)をクリアして一人前になっていきます。
学生時代から若手医師になるまでの10年以上はかなりのストレスに晒されるため、こうした精神疾患の兆候が自覚される、あるいは他者から指摘をされることもあります。
そのため、医師国家試験に合格する前であれば他の進路を検討し、医師になった後でも自身の特性や求められる能力とのミスマッチがあれば、新たな業種を選ばざるを得ない場合もあるでしょう。
医師国家試験中に適応障害(急性ストレス反応)を発症
医師国家試験はかつて3日間、現在は2日間、合計400問の試験で構成されています。
特にその中での「必修問題」とされるセクションでは80%以上の正解が必須となります。
同時に、医師としてあるまじき選択肢を選んだ場合には「禁忌選択肢」として2個以上選択すると自動的に不合格となるシステムです。
筆者が医師国家試験を東京都内の某大学校舎で受けていた2日目の午後(必修問題のセクション)のことでした。
左斜め前の女性が、途中でイライラし始めて何かおかしい行動をとり始めました。
試験監督がその様子を見に行くと、急に「キャー、こわい、助けてー」と大声で叫び始めました。
この様子を見ていた試験監督は応援を呼びに行きましたが、当該受験生の女性は我に返ることがなく強制退場。
その後、他の部屋からも叫び声が聞こえ、5分後には救急車のサイレンが近づき…
おそらく適応障害やストレスによる急性ストレス反応であったと思われます。
専門医試験の面談での奇抜な行動
専門医試験においては、多くの診療科では初日は筆記試験、2日目は面談を行います。
こうした学会公認の試験においては、服装はスーツ・革靴などのドレスコードが一般的です。
ところが数名はこうしたドレスコードを無視して、奇想天外な行動をとっていました。
ある男性受験者です。
自分とペアとなる面接委員が担当しましたが、まずは服装が「某アニメキャラのTシャツ」と「ビーチサンダル」で第一印象が悪くなりました。
提出した症例に関して質問を続けたところ、不都合になると「死んだようなふりをして、白目をむく」リアクションをとったり、Tシャツに描出されていたアニメの主題歌を歌ったりと、奇抜な行動への対応に困りました。
当然のことながら、面接ではD判定(不合格)となりました。
また、別の女性の受験生ですが、質問に答えられないといきなり過換気症候群になり、急に泣き出して「お母さん、〇〇指導医、ごめんなさい」と叫び出して面接が成立しませんでした。
こうした試験・面接などが、医師の本来あるべき姿・性格や内在する精神疾患を顕在化させることになるため、スクリーニングとしては適切な方法であると感じています。
まとめ
医学部生の頃から医師になった後も、医学の学習だけでなく過重労働や患者の命に関わる重圧など、非常にストレスの多い環境で働いているため、精神疾患を発症するリスクが高いと言われています。
また、医師は「自分が病気であるはずがない」と考えがちで、周囲に相談しにくい環境にあることから、問題を抱えていても表面化しにくい傾向があります。
近年、医師のメンタルヘルス問題が重要視されるようになり、医療機関や医師会などが支援体制を整え始めています。
このため、医師自身も、ストレスマネジメントやワークライフバランスの改善など、自身のメンタルヘルスケアに努めることが大切です。
記事執筆 ドクター T T