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医師のともコラム

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改正医療法の概要と今後の見通し

2021年5月21日、通常国会において改正医療法が成立しました。

医療法とは我が国における医療の提供方法、方針を定めた法律であり、改正の内容はその時々の時代背景に合わせた医療の在り方、国の医療方針を如実に反映するものとなっています。

医療法は医療を受ける側(患者)の利益の保護と、一定の水準を保ちながら適切かつ効率的な医療の提供体制の確保を目的として1948年(昭和23年)の制定以来8度の改定が行われてきました。

※正式には「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」という名称ですが、医療法や医師法、感染症法、労働基準法など幾つかの法律が一括して提出されていたため、ここでは煩雑さを避ける目的で「改正医療法」「医療法改正」と総称しています。

 

厚生労働省が公表した資料によると、改正医療法の内容は大きく分けて以下の3つです。

  • 医師の働き方改革(医師の長時間労働の見直し)
  • 各医療関係業種の専門性の活用(医師の負担減を目指す)
  • 地域の実情に応じた医療提供体制の確保

(新興感染症の感染拡大時における対応事項や地域医療構想に向けた取り組み支援)

 

本稿では今回の改正のポイントを項目ごとに解説していきます。

医師の働き方改革

2024年4月の施行が予定されており、医師の時間外労働の上限を設定する規制です。

全国的に医師の長時間労働は常態化しており、政府主導での労働環境改善の動きが強まっています。

時間外労働に対する3つの水準

今回の改正の大きなポイントとしては、医師の健康管理のため「勤務間の十分な休憩」「規定を順守できない場合の面接指導」「連続勤務時間の制限」などを義務付け、全国の医療機関が許容する時間外労働時間に応じて「A水準」「B水準」「C水準」の3つに分けられることが挙げられます。

 

このうち、A水準は原則としてすべての医師が対象であり、労働時間が年間960時間以下に抑えることを求められます。

 

B水準は「地域確保暫定特例水準」と呼ばれ、救急医療など緊急性の高い医療を提供する医療機関において、地域医療提供体制を確保する観点に立ち、止むを得ずに労働時間が960時間を超え1860時間以下となる医療機関です。

こちらは体制の整う2035年度末まで年1860時間まで上限が緩和される予定です。

さらに、B水準では「連携B水準」という分類も作られており、主な勤務先の時間外労働時間が年960時間に収まるものの、副業・兼業先の労働時間を通算すると年960時間を超えてしまう医師が所属する医療機関が対象となります。

こちらも同じようにあくまでも2035年度末までの措置であり、最終的には勤務時間の抑制が求められます。

また、新型コロナウイルスへの対応を念頭においた「新興感染症の感染拡大時における対応」については、先述した基準のうちB水準(上限1860時間以下)であり、救急医療など地域に必須である医療機関を対象としています。

 

初期研修医や新専門医制度の専攻医、高度技能獲得を目指すなど、短期間に集中的に経験を積む必要のある医師については、例外的に年間1860時間までの労働が認められることになりました。

これらに該当する場合は「集中的技能向上水準」(C水準)に分けられます。

具体的には、臨床研修医・専攻医が研修プログラムに沿って基礎的な技能や能力を習得する際に適用する「C-1水準」、医師登録後の臨床従事6年目以降の医師の高度技能育成に必要な場合に適用する「C-2水準」に細分化されています。

法定割増賃金の引き上げ

一方、2023年4月からは法定割増賃金の引き上げが始まります。

既に大企業では行われていますが、医療業界も例外なく月60時間を超える法定時間外労働に対し、50%以上の割増賃金率で支払うことが義務付けられます。

 

しかし、実際に医療の現場では病院経営の負担を減らすために時間外の超過勤務に対して記録を残さないよう命じられるケース、人手不足でやむを得ず時間外労働を黙認するケースも横行しています。

また、医師の収入のうち、時間外労働の賃金が占める割合も考慮しなくてはいけません。

特に、大学病院の医師の給与はその勤務実態に照らし合わせれば驚くほど少なく、中には主な勤務先の他に複数の勤務先を合わせて、やっとのことで家族を養っている医師も少なくないことはあまり知られていないのではないでしょうか。

 

医療ミスが生じる確率は勤務時間に比例するという調査結果が示す通り、医療の質を守るためにも、医師の健全な就労環境を本当に実現しようとするならば、病院外部からの勤務実態の調査や、財源の確保が必要となるでしょう。

各医療関係業種の専門性の活用

このような医師の勤務時間の短縮を補う形で、各医療関係職種の専門性の活用が進められようとしています。

2021年10月1日に施行された医療関係職種の業務範囲の見直しにより、タスクシフト/シェアを目標に、医師の負担の軽減と医療関係職種がより専門性を活かすことを目標とし、各職種の業務範囲の拡大等が進められています。
該当する職種は、①診療放射線技師、②臨床検査技師、③臨床工学技士、④救急救命士の4職種です。

改正では、これらの医療職種が実施できる業務が拡大され、例えば、一連の検査のプロセスにおいて医師や看護師が対応していた医療行為も、 診療放射線技師等が行えるようになります。

実施できる業務の拡大は、厚生労働省令による規定も含めた措置であり、医師の負担減という観点だけではなく、特に救急の現場では従来は法律により医師のいる病院に着くまで実施できなかった救急医療行為を実施可能にすることで、より多くの命を救うことができるのでは、と期待される声もあります。

今回の改定で各医療関連業種が実施可能となった範囲の調整と、各業種の更なる専門性の研鑽が急がれています。

 

また、医学生が臨床実習内で医業を行うことができる旨も明確化されました。

  1. 共用試験合格を医師国家試験の受験資格要件とし
  2. 共用試験に合格した医学生が

臨床実習として医業を行うことができる旨を明確化するという、医師養成過程の見直し(①は2025年4月1日、②は2023年4月1日施行)がなされることになります。

医学部での医師養成過程において、卒前教育においても医学生が診療に参加し、医療現場を中心として一貫して行う必要性が指摘されている中で、今回の法改正により、大学における医学教育の中で重要な役割を果たしている「共用試験」については、医師法上、医師国家試験の受験資格の要件として位置づけられることになります。
また、共用試験の合格は医学生が一定水準の技能・態度レベルに達していることを担保するものであることから、共用試験に合格していることが臨床実習において医業を行うための要件となります。(歯科医師にも同様な措置が行われることが決まっています。)

地域の実情に応じた医療提供体制の確保

これまで述べてきたように、様々な医療提供体制改革が同時並行で進められており、それぞれが複雑に影響し合っています。

今回の改正では、従来から議論されてきた地域医療構想について、全国で余剰となっている病床数の調整や在宅医療の充実が挙げられましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の最中で大量に病床の確保が必要となったこともあり、コロナ禍がひと段落しない限りは現実的ではないかもしれません。

 

また、外来機能報告が制度化されたことがポイントとなりました。

地域で外来機能を基幹的に担う医療機関を明確化するもので、紹介を受けて外来受診することを基本とする医療機関が患者側に周知されるようになることが期待されて います。

外来機能の報告は都道府県知事に対して行い、 提供する外来医療のうち「その提供に当たって医療従事者、医薬品、医療機器その他の医療に関する物資を重点的に活用するものとして厚生労働省令で定める外来医療」 に該当する事項の内容について報告します。

 

また、それらの外来医療を提供する基幹的な病院または診療所としての役割を担う意向を有する場合は、その旨も報告します。

該当事項や意向についての報告は、一般病床または療養病床を有する病院と診療所は義務となり、 無床診療所は、「報告することができる」という扱いです。

報告は、レセプト情報等のデータベースを活用し、医療機関の事務は極力簡素化することも検討されます。

医療資源を重点的に活用する外来として考えられる機能の具体的な内容については

  1. 医療資源を重点的に活用する入院の前後の外来 (悪性腫瘍手術の前後の外来など)
  2. 高額・先進等の医療機器・設備を必要とする外来 (外来化学療法、外来放射線治療など)
  3. 特定の領域に特化した機能を有する外来(紹介患者に対する外来など)

といった想定がされています。

 

なお、現在一般病床数200床以上の病院は、選定療養として紹介状なしに受診した患者から任意の費用(5000円)徴収ができるようになっていますが、その徴収を義務化するという案も浮上しています。

改正医療法の概要と今後の見通しについてのまとめ

いずれの項目も以前から議論は続いてきましたが、昨年からの新型コロナウイルスの感染拡大を受け、医療機関はかつて経験したことのない逼迫した状況を経験しました。

コロナ禍がひと段落するまで地域間での業種を越えた具体的な調整、議論を深めていく余裕は無いというのが現実かもしれません。

しかし、有事の際でも揺らがずに、地域間での偏りのない、確実に医療を提供できる体制の在り方について、改めて問われる時が来たのではないでしょうか。

 

 

記事執筆  医療ライター 田森裕

 

参考資料

厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000475778.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/000737490.pdf

https://www.jaam.jp/info/2021/files/20210601_2.pdf

 

全日本病院協会

https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20210401/news07.html