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医師のともコラム

COLUMN

高齢化社会における医療費抑制と質の維持:日本の医療制度の展望

 

日本の医療制度は、国民皆保険制度を基盤に、世界的に見ても質の高い医療を提供してきました。


しかし、急速な高齢化の進展は、医療需要と医療費の増大を招き、医療制度の持続可能性に深刻な影を落としています。


医療の質を維持しながら、いかにして医療費を抑制していくのかは、日本の医療界全体にとって喫緊の課題です。

 

本稿では、医師の皆様に向けて、高齢化社会における医療費抑制と質の維持の両立という難題に、多角的な視点から迫ります。


社会保障制度改革、予防医療、在宅医療、医療従事者の確保と育成といった、医療現場にも大きな影響を与えるであろうテーマを取り上げ、日本の医療制度の展望を探ります。

 

社会保障制度改革:持続可能な医療制度の構築に向けて

 

医療費増加の構造的要因と社会保障制度改革の必要性

 

日本の医療費は、高齢化の進展、医療技術の高度化、新薬の開発などを背景に、増加の一途をたどっています。


2024
年度の国民医療費は、過去最高の47兆円に達し、過去最高を更新しました。

(参照:厚生労働省「令和5年度医療費の動向」

 

 

医療費増加の要因は複雑ですが、特に高齢者医療費の増加が大きな割合を占めています。


65
歳以上の高齢者人口は増加の一方で、現役世代が減少する社会構造の変化の中、医療保険制度の維持には、現役世代への負担増が避けられません。

 

現役世代の負担を抑制し、将来世代にも負担を先送りしない、持続可能な医療保険制度を構築するために、社会保障制度改革は待ったなしの状況です。

 

医療費適正化に向けた取り組み

 

医療費適正化に向けた取り組みとしては、以下の点が挙げられます。

 

ジェネリック医薬品の普及促進

後発医薬品であるジェネリック医薬品は、先発医薬品と比べて薬価が安価であるため、普及促進により医療費抑制効果が期待できます。


厚生労働省は、2023年度末までにジェネリック医薬品の数量シェア80%の達成を目標としており、医師には、患者さんの状況に応じて、ジェネリック医薬品を積極的に処方することが求められます。

(参照:厚生労働省「後発医薬品(ジェネリック医薬品)について」

 

在宅医療の推進


在宅医療は、病院での治療が困難な患者さんに対して、自宅で可能な限り質の高い医療を提供することで、患者さんのQOL向上と医療費抑制の両立を目指すものです。


厚生労働省は、2040年までに、住み慣れた地域で自分らしく生活できるよう、医療・介護を一体的に提供する「地域包括ケアシステム」の構築を目指しています。

(参照:厚生労働省「地域包括ケアシステムと医療介護連携」

 

医療機関の機能分担の推進


急性期医療、回復期リハビリテーション、慢性期医療など、各医療機関の機能分担を明確化し、患者さんの状態に合わせた適切な医療機関への受診を促すことで、医療資源の効率的な活用を目指します。

 

社会保障制度改革における医師の役割

 

社会保障制度改革は、医療提供体制や診療報酬にも大きな影響を与えるため、医師の積極的な参画が必要不可欠です。


医療現場の声を政策に反映させ、患者さんにとってより良い医療を提供できる制度設計に貢献していくことが重要です。

 

予防医療の推進:病気にならないための社会づくり

 

予防医療の重要性と健康寿命の延伸

 

高齢化社会において、医療費抑制と健康寿命の延伸を実現するために、病気になってから治療するのではなく、病気にならないための「予防医療」の重要性が高まっています。

 

健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことです。

(参照:厚生労働省 「健康寿命の令和4年値について」  

 

日本は平均寿命が世界トップレベルである一方、健康寿命との差は約10年と、健康寿命が必ずしも長いとは言えません。


この差を縮小し、健康で長生きできる社会を実現するためには、生活習慣病の予防や早期発見、重症化予防が極めて重要です。

 

特定健診・特定保健指導の実施と課題

 

特定健診・特定保健指導は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目し、生活習慣病の発症や重症化を予防することを目的とした、メタボリックシンドロームに着目した保健事業です。


40
歳以上の加入者を対象に、医療保険者(健康保険組合など)が実施するメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した保健事業です。

(参照:厚生労働省「特定健康診査・特定保健指導について」  

 

特定健診・特定保健指導の実施により、生活習慣病のリスクが高い人に対して、早期に生活習慣改善を促すことで、医療費抑制効果が期待されています。


しかし、特定健診の受診率は伸び悩んでおり、積極的な受診勧奨と、効果的な保健指導の実施が課題となっています。

 

医師の役割:健康意識の向上と行動変容の促進

 

医師は、患者さん一人ひとりの健康状態や生活習慣を把握し、適切な健康指導や生活習慣病予防のためのアドバイスを行うことで、患者さんの健康意識の向上と行動変容を促進する重要な役割を担っています。

 

また、地域住民向け健康講座やイベントなどに参加し、健康に関する正しい知識を普及啓発することで、地域全体の健康意識向上に貢献することも期待されます。

 

在宅医療の充実:住み慣れた地域での生活を支えるために

 

在宅医療の現状と地域包括ケアシステムの構築

 

在宅医療は、病院での治療が困難な患者さんに対して、住み慣れた環境で、可能な限り質の高い医療を提供することで、患者さんのQOL向上と医療費抑制の両立を目指すものです。

 

近年、厚生労働省が推進する「地域包括ケアシステム」の構築に伴い、在宅医療の重要性はますます高まっています。


地域包括ケアシステムとは、高齢者が住み慣れた地域で、人生の最後まで自分らしく生活できるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制のことです。

 

在宅医療における多職種連携の重要性

 

在宅医療では、医師、看護師、薬剤師、介護福祉士、ケアマネージャーなど、様々な職種の専門家が連携し、患者さん一人ひとりの状況に応じた切れ目のない医療・介護サービスを提供することが重要です。

 

例えば、医師は、患者さんの病状や治療方針を他の職種と共有し、連携してケアにあたります。


また、薬剤師は、薬の管理や服薬指導だけでなく、副作用のチェックや患者さん宅への訪問服薬指導などを通して、在宅医療を支えます。

 

在宅医療の普及に向けた課題と医師の役割

 

在宅医療の普及には、医療費の負担、医療従事者の不足、24時間体制の確保など、様々な課題があります。

 

医師は、在宅医療のメリットやリスクを患者さんや家族に丁寧に説明し、理解と協力を得ながら、適切な医療を提供していくことが求められます。


また、地域の関係機関と連携し、在宅医療を支える体制づくりにも積極的に関わっていくことが重要です。

 

医療従事者の確保と育成:医療提供体制の維持のために

 

医療従事者不足の深刻化と地域医療への影響

 

少子高齢化の進展に伴い、医療需要は増加の一方で、医師、看護師をはじめとする医療従事者の不足が深刻化しています。


特に、医師の地域偏在や診療科偏在は深刻で、地方やへき地、小児科や産科などでは、医師不足が医療提供体制の維持を困難にしています。

 

医療従事者の確保と育成に向けた取り組み

 

医療従事者の確保と育成は、日本の医療の未来を左右する重要な課題です。


政府は、医学部定員の増員、医師の働き方改革、チーム医療の推進など、様々な対策に取り組んでいます。

 

医学部定員の増員


医師不足解消のため、医学部の定員増が続けられています。


しかし、医学部新設や定員増には、教育体制の充実、病院における研修医の受け入れ態勢の整備など、多くの課題も伴います。

 

医師の働き方改革


医師の長時間労働の是正、柔軟な働き方ができる環境整備など、医師の働き方改革は喫緊の課題です。


医師の負担を軽減し、ワークライフバランスを実現することで、医師としてのキャリアを継続しやすい環境作りが求められています。

 

チーム医療の推進


医師、看護師、薬剤師、理学療法士など、多職種がそれぞれの専門性を生かし、連携して医療を提供する「チーム医療」の推進は、医師の負担軽減と医療の質向上に不可欠です。

 

医師のキャリアパス多様化と地域医療への貢献

 

医師のキャリアパスは病院勤務医だけでなく、開業医、産業医、行政官など、多様化しています。


地域医療への貢献という観点からも、医師がそれぞれの専門性やライフスタイルに応じて、多様な働き方を選択できる環境整備が重要です。

 

まとめ

 

高齢化社会における医療費抑制と質の維持の両立は、容易な課題ではありません。


医療現場では、社会保障制度改革、予防医療、在宅医療、医療従事者の確保と育成など様々な取り組みが進められていますが、これらの実現には、医師一人ひとりの意識改革と行動が不可欠です。

 

医師は医療の専門家として、患者さん一人ひとりに寄り添い最善の医療を提供するとともに、日本の医療制度の持続可能性についても真剣に考え、行動していくことが求められています。