パンデミックを契機に働き方は大きく変化し、テレワークが急速に普及しました。
働く場所や時間の自由度が高まり、ワークライフバランスの改善に貢献する一方、健康面への影響も懸念されています。
医療現場においても、運動不足による体重増加や便秘、眼精疲労、肩こり、精神的なストレス…といった、以前はあまり聞かれなかった健康上の悩みを相談されるケースが増えているのではないでしょうか。
多くの人が、新しい働き方による変化に戸惑い、身体的にも精神的にも負担を抱えている現状があります。
本稿では、テレワーク普及が健康に及ぼす影響と、具体的な対策について改めて考えていきます。
患者さんの健康をサポートするためのヒントになれば幸いです。
テレワークで顕在化する健康リスク
運動不足と生活習慣病リスクの増加
通勤や移動時間の減少は、活動量の低下に直結します。
企業勤めの人にとって、以前は駅まで歩くことが良い運動になっていたというケースも少なくありません。
しかし、テレワークになると、意識して運動しなければ、一日の歩数が激減してしまうのは当然のことと言えます。
厚生労働省の「令和4年 国民健康・栄養調査」によると、20歳以上の男性の約4割、女性の約5割が、1日あたりの歩数が7,000歩未満という結果が出ています。
運動不足は、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病のリスクを高めるだけでなく、心筋梗塞や脳卒中といった重篤な疾患を引き起こす可能性も高めます。
特に、テレワーク導入による運動不足は、従業員の健康状態に直接的な影響を与える可能性が指摘されています。
Journal of Occupational & Environmental Medicine に掲載された研究(2023年)によると、パンデミック中のテレワークによって身体活動量が減少し、体重増加や健康状態の悪化が見られたという報告があります。
この研究は、テレワークが運動不足のリスクを高め、健康状態に悪影響を及ぼす可能性を示唆しており、対策の必要性を裏付けています。
メンタルヘルスにおける新たな課題
テレワークは、仕事とプライベートの境界線が曖昧になりやすく、オンオフの切り替えが難しくなる側面があります。
常に仕事のことを考えてしまったり、孤独感を感じやすくなったりするなど、メンタルヘルスへの影響も懸念されます。
リモートワーク経験者の中には、当初は自宅で集中して仕事に取り組めることに魅力を感じていた人も多いでしょう。
しかし、その一方で、次第に同僚とのコミュニケーション不足や、孤独感を感じるようになったというケースも少なくありません。
何気ない会話や情報交換の機会が、業務効率化だけでなく、気分転換やストレス解消にも繋がっていたということに、改めて気づかされるということもあるようです。
テレワークにおけるメンタルヘルス対策の重要性は、これまで以上に高まっていると言えるでしょう。
見過ごせない身体的負担の増加
自宅での作業環境は、オフィスに比べて ergonomic な配慮が行き届いていない場合が多く、長時間労働と相まって、眼精疲労、肩こり、腰痛などの身体的症状を引き起こすリスクも高まります。
自宅のソファやダイニングテーブルなどで長時間作業をしていると、肩や腰の負担が増え慢性化する恐れがあります。
適切な高さのデスクと「ergonomic チェア」の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
「ergonomic チェア」とは、人間工学に基づいて設計された椅子のことで、身体への負担を軽減し、快適な座り心地を提供します。
背もたれの形状が背骨のS字カーブにフィットするものや、座面の高さや奥行きが調整できるもの、ランバーサポート(腰当て)が付いているものなど、様々な種類があります。
ergonomic チェアとデスクを導入し、こまめな休憩やストレッチも取り入れることで、症状が改善に向かうケースもあるようです。
作業環境の整備は、健康維持だけでなく、集中力や生産性向上にも大きく貢献すると言えるでしょう。
具体的な対策 – テレワーク時代の健康管理
意識的な運動習慣の確立
運動不足解消のため、日常生活の中に、意識的に運動を取り入れる工夫が必要となってきます。
すぐに行えることとして以下のような提案ができます。
在宅勤務時間の活用:
朝のウォーキングや軽いジョギング、自宅でのストレッチや筋トレなど、テレワークの時間を有効活用した運動習慣をつけていきましょう。
オンラインフィットネスの活用:
運動不足解消だけでなく、ストレス解消や気分転換にも効果的です。
自宅で手軽に始められる点も、テレワークとの相性が良いでしょう。
移動手段の見直し:
徒歩や自転車での移動を積極的に取り入れ、階段の利用を増やすなど、日常生活の中で体を動かす機会を増やす方法を促してみましょう。
メンタルヘルス対策 – 積極的にコミュニケーションを
オンオフの切り替え:
就業時間外は、仕事のことを考えないように意識し、趣味や家族との時間に集中することの重要性を伝えていきましょう。
メリハリのある生活リズムを維持することが、メンタルヘルスにとっても大切です。
コミュニケーション機会の確保:
定期的なオンラインでのチームミーティングや、雑談タイムなどを設けることで、孤独感の解消に繋がることを伝えましょう。
顔を合わせて会話することで、コミュニケーション不足を解消することができます。
リフレッシュ時間の確保:
好きな音楽を聴いたり、読書をしたり、散歩に出かけたりするなど、自分に合ったリフレッシュ方法を見つけ、積極的に取り入れていくことを勧めましょう。
快適な作業環境の整備と健康的なライフスタイル
ergonomic な環境:
適切な高さのデスクと ergonomic チェアを使用し、正しい姿勢を保つことの重要性を伝えましょう。
身体への負担を軽減することで、集中力を持続させることにも繋がります。
適切な照明:
目の負担を軽減するために、明るすぎず暗すぎない、適切な明るさの照明を選ぶことを勧めましょう。
ブルーライトカット眼鏡の利用も有効です。
定期的なストレッチ:
長時間同じ姿勢で作業をする場合は、定期的にストレッチを行い、身体を動かすことを習慣付けるよう伝えましょう。
肩こりや腰痛予防だけでなく、気分転換にもなります。
バランスの取れた食事と十分な睡眠:
健康的なライフスタイルの基盤となる、バランスの取れた食事と十分な睡眠の重要性を改めて伝えましょう。
まとめ
テレワークは、働き方改革を進め、ワークライフバランスを実現するための有効な手段の一つですが、同時に健康面への配慮も不可欠です。
運動不足解消、メンタルヘルス対策、作業環境の整備など、できることから取り組むことで、テレワークのメリットを最大限に活かしながら、健康的に、そしてより快適に働くことができるのではないでしょうか。
この機会に、テレワーク時代の健康管理について、改めて考えてみて下さい。