医療現場は、医師、看護師、薬剤師、事務スタッフなど、多様な専門職が連携して患者さんのために最善を尽くす「チーム」です。
そして、チーム医療の重要性がますます高まる現代において、医師には、高い専門性に加えて、組織をまとめ、人を動かす「マネジメント力」が求められています。
今回は、リーダーシップ論、チーム医療、病院経営といった、管理職を目指す医師にとって特に重要な知識やスキルについて解説し、明日からの現場で役立つヒントを提供します。
リーダーシップ:人を動かす「力」の正体とは
リーダーシップとは、組織目標の達成に向けて、チームを鼓舞し、方向性を示し、メンバーをまとめていく力のことです。
医師として豊富な経験を持つだけでは、必ずしも優れたリーダーになれるわけではありません。
組織を動かすリーダーシップを発揮するために、どのような要素が求められるのでしょうか。
リーダーシップのスタイル:自分に合った方法を見つける
リーダーシップには、指示命令型、コーチング型、参加型など、様々なスタイルが存在します。
重要なのは、置かれた状況やチームメンバーの特徴に応じて、適切なリーダーシップスタイルを選択することです。
例えば、緊急性の高い状況下では、迅速な判断と明確な指示を出す指示命令型リーダーシップが有効な一方、チームメンバーの自主性や創造性を引き出したい場合は、コーチング型や参加型リーダーシップが適しています。
日本医師会生涯教育講座でも、「リーダーシップ論」として、医療現場におけるリーダーシップの重要性や具体的なスキルについて解説されています。
参考:日本医師会生涯教育講座 テキスト「医療現場におけるリーダーシップ」
※日本医師会生涯教育講座のページであり、具体的なテキストへの直接リンクはございません。
コミュニケーション能力:チームを一つにまとめる「潤滑油」
円滑なコミュニケーションは、チーム医療における最重要課題の一つです。
リーダーは、メンバーの意見に耳を傾け、相互理解を深め、信頼関係を築くためのコミュニケーション能力が不可欠です。
具体的には、
積極的な傾聴: メンバーの意見を最後まで丁寧に聞き、共感の姿勢を示す
明確な指示: 指示内容、期日、担当者を明確に伝える
フィードバック: チームや個人の成果、課題に対して、具体的で建設的なフィードバックを行う
などを意識することで、より円滑なコミュニケーションを実現することができます。
モチベーションマネジメント:やる気を引き出すために
チームメンバーのモチベーションを維持・向上させることも、リーダーの重要な役割です。
そのためには、
目標設定への参加: チーム全体の目標設定や業務計画に、メンバーを積極的に参加させる
役割と責任の明確化: 各メンバーの役割と責任を明確化し、責任感と当事者意識を高める
成果の可視化: チームや個人の成果を可視化し、達成感を共有する
といった取り組みを通じて、メンバー一人ひとりのモチベーションを高めていくことが重要です。
リーダーシップは、一朝一夕に身に付くものではありません。
しかし、リーダーシップ論を学び、様々なリーダーシップスタイルを理解した上で、自分自身の強みと弱みを理解し、チームメンバーと積極的にコミュニケーションを取りながら、経験を積んでいくことが重要です。
チーム医療:多職種連携を成功させるために
チーム医療とは、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士など、複数の医療専門職がそれぞれの専門知識や技術を生かし、互いに協力しながら患者さんの治療にあたることです。
高齢化の進展に伴い、複数の疾患を抱える患者さんも増えている中で、チーム医療の重要性はますます高まっています。
チーム医療の意義:患者中心の医療の実現
チーム医療の最大の目的は、「患者さん中心の医療」の実現です。
複数の専門職がそれぞれの視点から患者さんを総合的に評価し、情報を共有することで、より適切な治療やケアを提供することができます。
また、チームで連携することで、医療安全の向上や医療の質向上にも繋がります。
厚生労働省は、「チーム医療の推進に関する指針」において、チーム医療を推進するために必要な体制整備や人材育成などを示しています。
参考:厚生労働省「チーム医療の推進に関する指針」
効果的なコミュニケーション:情報の共有と連携の強化
チーム医療を成功させるためには、職種間の垣根を越えた、効果的なコミュニケーションが不可欠です。
共通言語の使用: 専門用語を控える、分かりやすい言葉で話すなど、職種間で誤解なく情報共有できるよう努める
定期的なカンファレンス: 治療方針や患者さんの状態について、チーム全体で共有するための定期的なカンファレンスの場を設ける
情報共有ツールの活用: 電子カルテや情報共有システムを活用し、リアルタイムに情報を共有する
などの取り組みが重要です。
チーム医療における医師の役割:リーダーシップと専門性の発揮
医師は、チーム医療においても中心的な役割を担っています。
高い専門知識や技術を生かして、診断や治療方針の決定を行うだけでなく、チーム全体を統括し、方向性を示すリーダーシップも求められます。
また、他の医療専門職の専門性や役割を理解し、尊重することが、チーム医療を成功させるために重要です。
病院経営:医療現場を支える「経営」の視点
医療機関も、限られた資源(ヒト・モノ・カネ)を有効活用し、運営していくためには、経営の視点が欠かせません。
特に、管理職を目指す医師は、医療経営に関する基礎知識を身に付けておく必要があります。
医療経済:医療費と病院経営の現状
我が国の医療費は増加を続けており、医療費抑制は喫緊の課題となっています。
医療機関は、診療報酬制度に基づいて収入を得ていますが、診療報酬は医療費抑制の観点から、改定の度に厳しさを増しています。
病院経営においては、医療の質を維持しながらも、経営効率を高め、安定的な経営基盤を構築していくことが求められています。
病院経営の基礎知識:DPC、PDCAサイクル
病院経営の基礎知識として、
DPC(診断群分類包括評価): 入院患者さんを診断群分類ごとに定められた1日当たりの定額報酬で医療費を算定する制度
PDCAサイクル: Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)を繰り返すことで、継続的に業務を改善していく手法
などは、管理職を目指す医師であれば、理解しておくべきでしょう。
医療現場におけるマネジメント:課題発見と解決能力
病院経営の知識は、医療現場の課題解決にも役立ちます。
例えば、待ち時間の短縮、医療安全対策の強化、医療従事者の負担軽減など、医療現場が抱える課題は様々ですが、これらの課題を解決するためには、医療経営の観点から、問題の所在を分析し、効果的な対策を立案していく必要があります。
まとめ:医療現場をより良くするために
医療現場は、常に変化を続けており、医師を取り巻く環境も日々変化しています。
そのような中で、医師には、高い専門性に加えて、組織をまとめ、人を動かす「マネジメント力」がますます重要となっています。
リーダーシップ、チーム医療、病院経営といった知識やスキルを身につけることで、医師は、医療現場における様々な課題を解決し、より良い医療を提供していくことができるのではないでしょうか。