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医師のともコラム

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損害保険を活用した医療機関のリスクマネジメント

自然災害などのリスクが存在するように、皆さまの医療法人や医院経営でもさまざまなリスクに直面したご経験があるのではないでしょうか。

経営にとって重要な資金調達などに関する「ファイナンシャルリスク」、医療事故だけに限らず多種多様な「医療事業全般におけるリスク」が存在します。

 

今回は、皆さまの経営に関係するいくつかのリスクを紹介し、そのリスク回避策としての損害保険の活用を中心に解説します。

損害保険とは

保険を大きく分類すると、「損害保険」と「生命保険」の二つがあります。

「生命保険」は人に関する保険であり、人の「死亡リスク」と「病気・ケガの入通院リスク」などを中心に保障される保険です。

 

一方、「損害保険」は、端的に言ってしまうと「生命保険」以外の全ての保険と位置づけられており、人に関する保険だけではなく、モノ(財物)に対する保険や賠償に対する保険などがあります。

リスクマネジメントとは

「リスクマネジメント」は、「リスクコントロール」や「リスク管理」とも言われています。

例えば、将来の医療法人経営に悪い影響を及ぼすリスクを特定し、可能な限り低コストで資産や経営活動そのものを防衛する経営管理の手法です。

 

「リスクマネジメント」は、「P(リスクの特定・分析・計画立案)」→「D(対策・対応実施)」→「C(リスク評価)」→「A(改善)」のPDCAサイクルで進める活動です。

 

また、ご承知のとおり、医療機関の場合は、平成19年と平成28年に改正された改正医療法で義務化されている「医療安全管理指針」「院内感染対策指針」「医薬品業務手順書」「医療機器の保守点検計画」に基づいて、リスクマネジメントを実施します。

 

参照先:大阪府堺市ホームページ

医療機関の主なリスクとは

医療機関を取り巻く主なリスクを解説します。

1.財物リスク(物リスク)

医療機関が所有している財物(固定資産)が、火災・自然災害や突発的な事故などによって、損壊するリスクです。

たとえば、病院の建物、什器備品、機械、事業用車両、医療機器、パソコンなどの情報機器など、さまざまな財物に対する損壊リスクが考えられます。

2.賠償リスク

医療機関の施設管理の不備などで相手の人にケガを負わせたり、相手の所有する財物を損壊した場合は、相手に対して賠償しなければなりません。

また、皆さまの医療機関では細心の注意を払い、日々医療活動されていらっしゃるかと拝察しますが、医療ミスによる賠償リスクは医療機関特有のリスクになります。

3.人的リスク

理事長などの経営者、勤務医・看護士・事務職などの労働者に対する「死亡リスク」、「入通院リスク」などです。

経営者に万一のことがあれば、経営そのものが揺らぎかねない点、また就業中の事故などによって複数の従業員がケガで業務の遂行ができなくなると、事業活動そのものがストップするリスクです。

4.財務リスク

病院経営、診療所経営には資金調達は不可欠であり、売上にあたる診療報酬と人件費・物件費などの支出との収支バランスを保ちつつ、大規模な設備投資を実施するために金融機関などから借入を行うケースがあります。

しかし、環境変化によって診療報酬が大きく減少して収支バランスが崩壊すると、負債の増加などを招いて経営が立ちいかなくなるリスクが存在します。

5.経営戦略・オペレーショナルリスク

環境変化の激しい昨今ですので、誤った戦略をとった場合には倒産などの経営戦略リスクが高まります。

一方、内部管理態勢の不備などによって、コンプライアンスへの対応力不足やヒューマンエラーがなかなか改善されないなどのオペレーショナルリスクもあります。

 

たとえば、急速な人口減少と超少子高齢化の進行と同時に、労働力不足がクローズアップされており、勤務医・看護士採用などの人事戦略を間違えると優秀な人材確保ができません。

また、SNS普及による情報拡散力とその圧倒的なスピード感は、病院経営にとって宣伝効果となるいい情報だけではなく、悪い情報、つまり風評リスクになる可能性があります。

さらに、内部管理態勢が整備されていない組織では、法令違反や横領・贈収賄などの犯罪まで発生するリスクがある点や、ハラスメントなどの重大な労使間トラブルも招きます。

リスクに備える損害保険の役割

将来発生しうるリスクについては、

  1. 全てのリスクをとる
  2. 一部のリスクをとる=リスクの軽減=リスクの一部回避
  3. リスクの回避

など、リスクに対する防衛策は企業ごとにそれぞれ異なります。

 

②と③の手段として利用されるのが損害保険です。

例えば、火災が発生し1億円の損害が出ました。全てのリスクをとっていたケースでは、約1億円の資金を借入や現預金から調達しなければなりません。

一方、1億円が補償される火災保険に加入していた場合は、保険金として1億円が支払われますので、火災が発生したことによる負担は実質ゼロになるのです。

損害保険に加入するメリットは、万一、事故が発生した場合、上記のように全額もしくは一部でも補償してもらえる点にあります。

医療機関向けの損害保険

前述のとおり、医療機関のリスクに応じた損害保険を解説します。

1.財物リスク系損害保険

財物リスクに対応する保険は、財物を損壊してしまう要因や、どのような財物を補償するかによって保険種類やプランは異なります。

火災保険

火災保険は台風などの自然災害で建物や什器備品・機械などが壊れてしまった場合などに補償される保険です。

火災保険では、まず保険の対象(目的)を選択します。事業者の場合は、「建物」「什器・備品」「機械」、「造作」、「商品」などから保険の対象(目的)を決めます。

またプランによって補償範囲は異なりますが、火災保険では、①火災・落雷・破裂・爆発の補償、②風災・雹災(ひょうさい)・雪災の補償。③水災の補償、④外部からの衝突、水濡れ・盗難等の補償、⑤破損・汚損等の補償があります。

地震保険

火災保険では、地震・津波・噴火による建物などの損害は補償の対象外です。

また、政府への再保険制度が整備されている「地震保険」の対象は居住用の建物と家財のみであり、居住用ではない事業用の建物や什器備品機械類は、「地震保険」の対象外になっています。

 

このように事業用の建物などの地震に対する補償は、火災保険に別途「地震補償特約」を付帯する必要があります。

 

しかし、事業用の場合、居住用建物のように政府への再保険制度がなく、民間の損害保険会社が地震リスクを引受するにも限界があります。

また地震特約保険料が非常に高い点や引受制限が多い点もあり、地震補償がない事業用建物が多いのが実態です。

 

参照先:財務省(地震保険制度)

休業損害保険(財物用)

財物用の休業損害保険では、医療施設の建物が自然災害などによって全く使用できなくなり、休業しなければならない場合の損害を補償します。

2.賠償リスク系損害保険

医療機関の経営者や勤務医の皆さんが、特に重要と位置づけているのは賠償保険ではないでしょうか。

特に、医療行為によって患者に身体の障害が出た場合、損害賠償請求に備える医師賠償責任保険は、医療機関固有の賠償リスク系保険です。

【日本医師会】医師賠償責任保険制度

開業医の皆さまを中心とした日本医師会A会員対象の「医師賠償責任保険制度」であり、個別加入の必要はなく自動加入となります。

支払限度額は1事故1億円・保険期間中3億円で、免責金額は1事故100万円(同一医療行為につき)となっています。

参照先:日本医師会医師賠償責任保険制度

勤務医賠償責任保険

勤務医の皆さま向けで、日本医師会A会員以外の医師向けの医師賠償責任保険です。

病院賠償責任保険

病院・診療所の医師・補助者の医療行為によって患者に身体の障害が出た場合、病院や診療所の開設者や管理者に対しての損害賠償請求に備える賠償保険です。

また、医療機関の建物・機械設備の管理不備など、医療行為以外の業務の遂行により、他人にケガをさせたり、他人の財物を損壊した場合の損害賠償責任も補償されます。

さらに、一般的なPLリスク(生産物責任)にあたる医療施設の用法に伴う業務の遂行やその結果に関しての損害賠償責任も補償されます。

役員賠償責任保険(医療法人向け)

改正医療法で医療法人に対するガバナンスは厳格な規定となり、理事長など医療法人の役員個人の賠償責任が明確になりました。

これにより、役員個人が職員や第三者から損害賠償請求を提起された場合に備えるのが、役員賠償責任保険(医療法人向け)です。

参照先:日本病院会「医療法人向け役員賠償責任保険団体制度」

3.人的リスク系損害保険

人的リスクの保険として、労働者を対象にしている政府労災保険がありますが、政府労災保険の上乗せを目的とした「法定外補償規定」や、病気や就業中以外の死亡などへの「弔慰金規定」なども整備している企業があります。

労災上乗せ保険

「法定外補償規定」に基づいて、政府労災保険の対象になった場合に限り、保険金が支払われる労災上乗せ保険があります。

あくまでも政府労災保険が対象になった場合に限られますので、政府労災保険の対象にならなかった場合は、補償されないのが特徴です。

傷害保険

傷害保険と労災上乗せ保険の一番の違いは、傷害保険では政府労災保険の対象にならなかった場合でも補償対象になる可能性がある点です。

4.財務リスク系損害保険

医療機関向けの財務リスクに対しての損害保険はほとんど存在しませんので、資金難に陥らないように、健全な経営を実践する必要があります。

一方、個人開業医の皆さまについては、病気やケガで働けなくなった場合の損害を補償する「所得補償保険」があります。

診療所を維持するための固定費や生活費などに活用可能です。

5.経営戦略・オペレーショナルリスク系損害保険

経営戦略・オペレーショナルリスクに備える主な損害保険2つを解説します。

ハラスメント保険(雇用慣行賠償責任保険)

社内のハラスメントや不当解雇等の不当行為、または、第三者に対して行ったハラスメント・人格権侵害に起因して、損害賠償請求された場合の事業者が負担する損害賠償責任を補償します。

使用者賠償責任保険

使用者賠償責任保険とは、従業員が業務中に被ったケガまたは病気をした場合、労働安全衛生面などの不備があり、事業者が負担しなければならない損害賠償責任を補償します。

まとめ

今回は損害保険を活用した医療機関のリスクマネジメントについて解説しました。

今後、医療業界はAIなどの医療テクノロジーの導入がさらに活発になると予想され、それに伴って新たなリスクが増えてくる可能性があります。

リスクヘッジの手段として、損害保険の活用を検討してもいいかもしれません。