一般的な生命保険の役割は、万一の場合、残されたご遺族が生活に困窮しないようにするためです。
しかし、ご遺族にとっては将来の生活だけではなく、原則、相続発生後10ヶ月以内に現金一括で支払わなければならない相続税も大きな問題になります。
特に、医師の皆さまの年収は一般の方より高い水準にあるといわれており、比例して相続財産も多くなる傾向です。
世間では、不動産を活用した相続対策などさまざまな情報がありますが、今回は生命保険による相続対策に絞って解説します。
相続対策で生命保険が活用される理由8選
生命保険と相続は密接に関係しており、生命保険は相続対策として非常に効果的な金融商品です。では、なぜ相続対策に適しているのかを8つの視点から解説します。
1.生命保険の非課税枠を活用できる
生命保険で支払われる死亡保険金は、法定相続人であるご家族が受け取った場合、相続税の計算の際、500万×法定相続人数分が非課税になります。
たとえば、医師ご本人がお亡くなりになり、配偶者が死亡保険金受取人、法定相続人数は配偶者とお子さん2人の計3人の場合、500万×3人=1,500万が相続税の非課税枠です。
2.相続税の支払い準備ができる
生命保険は、保険金受取人が必要書類を用意して保険金請求すると、書類不備などがなければ、保険会社からスピーディーに支払われますので、相続税の支払い準備ができます。
特に、土地や建物などの不動産のみが相続財産で、現預金が極めて少ないケースでも、相続発生から10ヶ月以内に相続税を支払う必要がありますので、生命保険は有効です。
3.凍結される故人の銀行口座対策に備えることが可能
お亡くなりになった被相続人の銀行口座は、原則、遺産分割協議などの相続手続きが完了するまでは凍結され、資金を引き出しできません。
前述のとおり、生命保険はスピーディーに保険金が支払われますので、凍結された故人の銀行口座に代わる代替資金として、葬儀費用やご遺族の生活資金へ充当できます。
4. 生命保険は保険金受取人を指定可能
生命保険では、死亡保険金の受取人を指定できます。また、保険金受取人が指定されている生命保険金は相続財産には含まれません。
ご本人が生命保険金を受け取って欲しいと希望するご家族のどなたかを指定できますので、生命保険は一種の遺言と同じ効果が期待できます。
5.相続放棄しても生命保険は受け取り可能
被相続人が生前に借金など、多額の負債を抱えていた関係で、相続人が「相続放棄」せざるを得ない事例が多く見受けられます。
一方、生命保険の死亡保険金は保険金受取人固有の財産に該当し、相続放棄した相続人であっても保険金の受取が可能です。
6.生命保険は代償分割に活用できる
相続人が複数おり、分割できない、あるいは分割しにくい相続財産がある場合、生命保険を活用して代償分割できます。
代償分割とは、特定の相続人が自宅などの分割しにくい財産を相続する代わりに、他の相続人に対して一定の代償財産を交付する遺産分割方法です。
たとえば、被相続人と同居している相続人である配偶者が、そのまま住み続けるようなケースにおいて、お子さんなどの他の相続人に代償財産を交付する際に生命保険が活用されます。
7.生命保険は遺産分割の対象外
生命保険は「遺産分割協議」の対象外として取扱い可能です。
被相続人の遺言がないケースでは、全相続人による「遺産分割協議」で、それぞれの相続人がどのような財産を相続するかを決定し、「遺産分割協議書」にまとめる場合があります。
前述のとおり、保険金受取人が指定された生命保険は相続財産に含まれませんので、「遺産分割協議」で、どなたが生命保険を相続するかを話し合う必要はないわけです。
8.生命保険は遺留分の対象外
生命保険の死亡保険金は遺留分の対象ではありません。
そのため被相続人が特定の相続人に対して、できるかぎり多くの財産を相続させたい場合に、生命保険は有効です。
遺留分とは兄弟姉妹以外の法定相続人に対して、最低限保障されている取得分をいいます。
たとえば、配偶者と子供2人の法定相続人がいるケースで、被相続人が法定相続人以外に全財産を相続させるとの遺言があった場合でも、法定相続人の配偶者と子供は一定割合の相続財産を取得可能です。
なお、遺留分が認められているのは、配偶者、子供や孫などの直系卑属、親、祖父母などの直系尊属です。
【医療法人の皆さま必見】みなし相続財産と相続税非課税枠
「みなし相続財産」とは相続財産には含まれませんが、税法上、相続税の課税対象になる財産です。代表的なみなし相続財産には、生命保険金と死亡退職金の2つがあります。
みなし相続財産は、相続税の対象になるものの非課税枠があるのが特徴です。では、みなし相続財産の非課税枠適用の注意点などを解説します。
生命保険と死亡退職金の非課税枠の注意点
生命保険金で非課税枠が適用されるのは、保険契約者(保険料を納付している人)と被保険者が被相続人であり、保険金受取人が法定相続人になっている生命保険契約の場合です。
特に、保険金受取人が法定相続人以外の場合は、非課税枠は適用されませんので注意してください。
次に、被相続人の勤務先から相続人に支払われる死亡退職金については、被相続人の死亡後3年以内に死亡退職金の支給が確定した場合に限られます。
みなし相続財産の非課税枠(500万×法定相続人数)のダブル適用可能!?
前述のとおり、法定相続人が受け取る生命保険は、相続税の計算の際、500万×法定相続人数分が非課税になります。
同じように、死亡退職金に対しても500万×法定相続人数分が非課税枠として適用されます。
では、生命保険金と死亡退職金を法定相続人が両方受け取った場合、非課税枠はタブル適用(2枠併用)されるのでしょうか。
この場合、ダブル適用(2枠併用)可能です。
医療法人の死亡退職金と理事長個人の生命保険がある場合のメリット
理事長などの役員に対して、死亡退職金・弔慰金・勇退退職金(退職慰労金)などを整備している医療法人があります。
たとえば、法定相続人3名がいる理事長がお亡くなりになり、医療法人から支払われる死亡退職金と理事長個人が契約していた生命保険がある場合は、500万×3人(法定相続人数)×2枠の合計3,000万円が相続税の非課税枠となります。
医療法人、また今後医療法人化を検討されていらっしゃる個人開業医の皆さまは、医療法人での死亡退職金・勇退退職金制度の導入を是非検討してみてください。
【個人開業医の皆さま必見】相続財産の注意点
医療法人ではなく、個人開業医の皆さまの相続で注意しなければならないのは、事業用財産つまり医院財産も相続財産の対象となる点です。
医療法人の場合、医療法人所有の医療機械などの固定資産は、全て理事長個人所有の財産にはならないので、理事長個人の相続財産の対象外です。
しかし、個人開業医の場合は、固定資産は個人所有となり相続財産に含まれるのです。
たとえば、医院が所有している不動産(建物や土地)、医療機械、医院の什器備品、健康保険からの診療報酬の未収分など、全てが相続財産になります。
相続税の基礎知識
ここまでは生命保険による相続対策やその効果を紹介しましたが、こちらでは、相続税の基礎知識を解説します。
相続税の基礎控除
相続税は対象の相続財産に対して支払わなければならない税金で、対象相続財産から基礎控除額を差し引いた金額が課税対象の相続財産です。
現行の相続税の基礎控除額は、下記のとおりです。
基礎控除額=3,000万円 +(600万円×法定相続人数)
たとえば、法定相続人が5人いる場合、基礎控除額は6,000万円(3,000万円+600万円×5人)です。
上記の場合、相続財産が6,000万を超える場合は相続税がかかってきますが、6,000万円以下の場合、相続税はかかりません。
相続税率
現行の相続税の速算表(税率と控除額)は、下記のとおりです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
医師の生命保険を活用した相続対策まとめ
今回は、医師の皆さまにおける生命保険と相続対策について解説しました。
生命保険を活用した相続対策は医療法人と個人開業医のいずれかによって、対策内容は異なります。
紹介しましたように、医療法人では「死亡退職金」と「個人の生命保険」を活用できれば、相続税の非課税枠は広がります。
また、医師の皆さまの相続対策は生命保険だけにとどまらず、さまざまな視点で税金面だけではなく、医療業の事業承継対策などにも備える必要があるかもしれません。
ぜひ、この機会に相続・事業承継対策を検討してみてください。