超高齢者社会を迎えている日本に迫る「2025年問題」は、社会全体に様々な影響を及ぼすとテレビや新聞などで報道されています。
また、2025年問題が及ぼす医療業界への影響も、無視できるものではありません。
本稿では、2025年問題が医療、介護、社会保障に与える影響だけでなく、2025年問題に対する政府の動きに関して解説します。
さらに、今後の医療業界に求められる内容に関しても提言を行います。
2025年問題とは
第一次ベビーブームの時期に誕生した団塊の世代が、75歳以上の後期高齢者になるタイミングにおいて発生する様々な問題のことを「2025年問題」と総称しています。
内閣府|来推計人口でみる50年後の日によると、2025年には高齢者人口が3,657万人に達し、その後も高齢者人口は増加を続け、2042年に3,878万人とピークを迎えると報告されています。
また、高齢者人口の増加に伴い高齢化率も上昇を続けることが、先述の内閣府|来推計人口でみる50年後の日にて報告されています。
高齢化率は、2035年には33.4%を記録し、2042年より高齢者人口は減少するものの高齢化率は上昇を続け、2060年には39.9%に達すると記載されています。
このように2025年以降、高齢者人口の増加、並びに高齢者率の増加により、医療、介護、年金などに様々な影響が出ると予測されています。
また、2025年問題は、高齢者が急増を始めるタイミングを表すものであり、2025年がピークではないという点には十分な理解が必要です。
2025年問題の社会的影響
2025年問題が、医療業界だけでなく、介護、社会保障に多大な影響を及ぼすと言われています。
医療、介護、社会保障にどのような影響を及ぼすのか、解説を行います。
医療への影響
2025年問題を契機とした高齢者人口の増加により、医療サービスへの需要の増大と需給ギャップの発生が起こることが予測されています。
高齢者は現役世代とは異なり、様々な疾患にかかりやすいという特徴があります。
日本医師会|高齢者の身体と疾病の特徴によると、一般的な高齢者には以下の特徴があります。
- 予備力の低下(病気にかかりやすい)
- 内部環境の恒常性維持機能の低下(環境の変化に適応する能力が低下する)
- 複数の病気や症状をもっている
- 症状が教科書どおりには現れない
- 現疾患と関係のない合併症を起こしやすい
また、前期老年者では認知症、脱水、麻痺、骨関節変形、視力低下などが増加し、後期老年者では、ADL低下、骨粗鬆症、椎体骨折、嚥下困難、尿失禁などが増加すると日本医師会|高齢者の身体と疾病の特徴に記載されています。
このように、様々な疾病にかかるリスクの高い高齢者人口が増加するということは、医療の需要が増加することは必然であり、避けては通れません。
さらに、超高齢社会においては、医療サービスを提供する若者人口の減少という問題も抱えています。
内閣府|来推計人口でみる50年後の日によると、65歳以上と現役世代(20歳〜64歳)の人口推移は以下の通りとなっています。
年 | 65歳以上 人口(A) | 20歳〜64歳 人口(B) | B/A |
2030年 | 3,685万人 | 6,278万人 | 1.7 |
2040年 | 3,868万人 | 5,393万人 | 1.3 |
2050年 | 3,768万人 | 4,643万人 | 1.2 |
2060年 | 3,464万人 | 4,105万人 | 1.1 |
高齢者の人口は高止まりの状態が2060年まで継続するのに対し、現役世代の人口は一貫して減少を続けています。
2030年の時点では、現役世代1.7人で高齢者1人を支えることができますが、2060年になると現役世代1.1人で高齢者1人を支えることになってしまいます。
高齢者人口の増加により医療への需要が増大するにも関わらず、医療サービスを支える現役世代の人口が減少を続けるということは、医療の需給ギャップが発生することが容易に想像できます。
このように、2025年問題は、医療サービスへの需要増加だけでなく、医療の需給ギャップを発生させることが予測されています。
介護への影響
2025年問題により、介護に関しても需給ギャップが発生することが予測されています。
厚生労働省|介護分野の最近の動向によると、要介護3以上の要介護認定者数は、2015年の224万人に対し、2025年の時点では307万人、2035年には373万人に達し、2040年以降は2060年まで400万人程度で推移すると報告されています。
このように、常時介護が必要である要介護3以上の認定者数が増加を続けるということは、医療だけでなく介護のニーズも2025年以降に大幅に増大するということは明らかです。
介護ニーズが増大する一方で、介護サービスを支える現役世代の人口は減少を続けます。
経済産業省|将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会にて、2035年時点で介護サービス人材の需給ギャップが79万人に達すると予測されているように、介護の業界においても需給ギャップが発生することは容易に想像できます。
社会保障への影響
2025年問題を契機とする高齢者の増加により、社会保障給付費が増大することが見込まれています。
財務省|社会保障費はどのくらいまで増えるのかによると、年金、医療、介護などの社会保障給付費は、2018年の時点で121.3兆円でしたが、2025年には140兆円に増加し、2040年には190兆円に達すると報告されています。
特に医療、介護に関する社会保障給付費が、GDPの増加スピードを大きく上回っていることが、財務省|社会保障費はどのくらいまで増えるのかにて指摘されています。
「超高齢化社会の影響で、日本の年金システムは破綻する」などと指摘されるケースがあります。
しかし、医療、介護も含めた社会保障給付費が、日本の財政そのものを圧迫しているという予測も見逃すことはできません。
2025年問題に対する政府の動き
医療、介護、社会保障に様々な影響を及ぼす2025年問題に対して、政府は以下の3点を柱とする対策を行っています。
- 地域包括ケアシステムの充実
- 公費負担の見直し、公平化
- 介護人材の確保
それぞれの内容に関して、解説します。
地域包括ケアシステムの充実
地域包括ケアシステムとは、高齢者が要介護状態となっても住み慣れた地域で最後まで生活ができるよう、地域が一体となりサポートする仕組みです。
「病院や介護施設ではなく、住み慣れた家で過ごしたい」このように希望する高齢者は多いのではないでしょうか。
地域包括ケアシステムは、高齢者の住居を核として、医療、介護、予防、生活支援のサポートを一体として提供することを目的とした制度です。
医療に関しては、かかりつけ医が日常の医療サービスを担い、必要に応じて地域の連携病院と役割を分担します。
また、急性期病院、亜急性期・回復リハビリ病院なども、ケースに応じて高齢者に医療サービスを提供できる体制を目指したシステムとなっています。
介護の場合は、介護が必要となった時点で、介護を受けることができる体制を整えることを目的としています。
また、地域包括ケアシステムでは、高齢者が訪問介護や訪問看護などの在宅介護でも、介護老人施設、介護老人保健施設などの施設介護でも、必要とされる介護を受けることができる体制を整えることが求められています。
予防の分野では、要介護1もしくは要介護2の高齢者でも、自宅で暮らすことができるように介護予防サービスを活用し、要介護3以上にならないように予防する取り組みが行われています。
さらに、生活支援のサポートとして、自治体、老人会などが中心となり、老人カフェの運営、見守りサービス、食材配達などのサポートを行い、高齢者が安心して暮らすことができる環境づくりを行います。
政府は、地域包括ケアシステムを充実させることにより、高齢者を中心として医療、介護、予防、生活支援サポートを提供し、高齢者が住み慣れた地域で生活できる仕組みを整えることを目的としています。
公費負担の見直し、公平化
内閣府|社会保障の給付と負担等についてでは、社会保障制度の基本的な考え方として「国民が広く受益する社会保障に係る費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う」と記載されています。
また、「負担能力に応じた公平な負担(世代間・世代内の公平)」にも言及しており、負担能力に応じて公平に公費を負担する、という狙いが読み取れます。
政府が進めている公費負担の見直しとして、以下の2点が例として挙げられます。
- 低所得者からの国民健康保険料の軽減、高所得者には保険料の負担増(世帯ごとの所得に応じて公平化を図る)
- 介護保険法改正のたびに、低所得者の負担を軽減(3年に一度の法改正のたびに見直しが行われている)
介護人材の確保
少子高齢化が進む日本においては、介護人材に限らず全ての職種で人材が不足する状態が続くことは容易に想像できます。
さらに、介護業界においては、低賃金、重労働という介護職が抱える問題点があり、離職率が高い状態が続いています。
そのため、政府は介護職員の処遇改善、介護人材の育成、離職防止に取り組み、介護人材の確保を行っています。
これからの医療に求められる内容
本稿では、2025年問題による医療、介護、社会保障への影響と、政府の対応策について解説を行いました。
多くの高齢者が長生きできる社会を実現しているという点は非常に素晴らしいのですが、一方で自宅で過ごしたくても医療施設や介護施設での療養が続く高齢者が存在している点も見逃せません。
今後医療業界に求められる点は、地域包括ケアシステムに代表される地域医療の充実です。
地域医療を充実させることは、高齢者の「病院や介護施設ではなく、住み慣れた家で過ごしたい」という希望を叶えるだけではありません。
地域が一体となって高齢者をサポートすることにより、健康寿命を少しでも延伸させることが可能となり、その結果として、増大を続ける医療や介護などの社会保障給付費を削減することに繋がるのではないでしょうか。
記事執筆 医療ライター 土光宜行