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医師のともコラム

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2024年施行開始!医師の働き方改革に向けての進捗度は?

改正労働基準法に基づき、2024年4月に開始されることになった医師の働き方改革。

時間外労働の上限を法律で規制することは、71年前(1947年)に制定された労働基準法において初めての大改革です。

 

本稿では改革の概要と、改革に向けての全国の医療機関の現状を解説します。

改革の背景

施行のそもそもの目的は、過酷な労働環境にある医師たちの健康やライフワークバランスの確保、深刻な長時間勤務を改善することにあります。

厚生労働省の調査では、すべての雇用者(年間就業日数200日以上・正規職員)について、1週間の労働時間の実績を見ると、60時間を超える者が雇用者全体の11.8%となっています。

これを職種別に見ると、医師(37.5%)が最も高い割合となっているのが現状です(次いで、自動車運転従事者(37.3%))。

 

医療現場でのヒヤリハット、事故の発生件数は労働時間に比例して多くなる傾向にあり、1か月の勤務時間が200時間を超えるあたりからヒヤリハットを経験したとする割合は50%を超えます。

実際に、医療現場のみならず睡眠不足が作業効率の低下、反応性を鈍化させることが分かっています。

 

安全な医療を提供するという観点からも、医師の労働時間・形態の見直しが急がれています。

施行の内容

時間外労働上限規制の区分

おもに勤務医の超過勤務時間について以下のような区分がされています。

  • 一般のクリニックや勤務医はA水準
  • 地域医療確保のために通算で長時間労働が必要となる医師はB水準
  • 特定の高度な技能の習得のために長時間修練する必要がある医師や、長時間集中的に経験を積む必要がある研修医・専攻医はC水準

 

区分によって、次の通り時間外労働上限規制が設けられます。

水準 対象 時間外労働上限
A水準 すべての医師

診療従事勤務医

年960時間以下/月100時間未満(休日労働含む)
B水準 地域医療暫定特例水準

緊急性の高い医療を提供する医療機関

年1,860時間以下/月100時間未満(休日労働含む)
C水準 集中的技能向上水準

★初期臨床研修医・新専門医制度の専攻医や高度技能獲得を目指すなど、短期間で集中的に症例経験を積む必要がある医師

年1,860時間以下/月100時間未満(休日労働含む)

以上に定められた月の上限時間を超えて勤務する場合は、面接指導と就業上の健康確保措置が各水準のすべてにおいて義務付けられます。

健康確保措置とは、月の上限を超えて労働する医師に対して28時間の連続勤務時間制限を設け、さらに勤務間インターバルを9時間確保または代償休息をセットとするものです。

 

※健康確保措置については、A水準では努力義務、B水準、C水準では義務とされます。

 

厚労省による「医師の働き方改革の推進に関する検討会」の中間とりまとめ(2020年12月)では、医師の勤務時間を短縮するための各種マニュアルや健康確保措置のための指標等が公表されており、各医療機関は医師の労働時間の把握や制度の見直しなどの対応を進める必要に迫られています。

施行開始に向けての課題

医療機関が働き方改革に向けて準備するには、まず医師の勤務時間を正確かつ客観的に把握できる体制を整える必要があります。

 

しかし、医師の勤務形態は日直、宿直、呼び出し、待機時間、ヘリコプター同乗、副業など、かなり複雑で、正確な実労働時間が把握しにくい状況です。

また、患者の容態によって勤務時間が変わることも多くあります(救急対応、緊急手術、脳外科などの勤務時間を超える手術、患者の看取りなど)。

当直、日直など長時間勤務にならざるを得ないシフトもあり、呼び出しの場合は1度の呼び出しでそのまま次の呼び出しに対応するなど、呼び出し回数が把握できないこともあります。

 

まずは医師の勤務時間を短縮することが第一の課題ですが、勤務体系以外にも問題が山積しています。

医師本人による勤務時間の自己申告

医師本人が書類やエクセルで申告するケースが多いですが、手入力による処理が多いこともあり、膨大な労務管理の手間が必要になるのはもちろん、入力・計算ミスも起こります。

また、救命救急、産婦人科、新生児科、脳外科など突発的な長時間労働が避けられない診療科目もありますが、超過勤務時間を申告しないという暗黙の了解が存在しているケースも見受けられます。

自己研鑽なのか勤務時間なのか

病院内の委員会や紀要の執筆、学会発表や研究会の準備・参加、後進の指導など自己研鑽の時間なのか勤務時間なのかの線引きが難しい状況です。

厚生労働省の資料では「上司の指示があり、明確な記録があるもの」を勤務時間とするように位置づけていますが、勤務時間後や土日に学会や論文等の準備や研究会に参加することも多く、一つ一つを勤務時間として申請するには細かな申請作業が必要になってしまいます。

実際は医師が自分の時間を削ってこれらの業務に従事していると考えた方が良いでしょう。

 

また、アルバイト等を行っている医師も多いため、その全てを把握しようとすると事務的な手間もかかります。

 

患者数の偏在

多くの大学病院や救急病院がある都市部とは違い、地方では地域医療機関への患者の振り分けに偏りがあるため、地方の中核的な医療機関に外来患者が集中し、外来時間に診療し切れず、勤務時間を長時間化していることが大きな問題となっています。

地域医療の中核を担う医療機関や大学病院では予約が取れるのは数か月先、予約をしていても4,5時間待ち、というような場合もよくあります。

地方の医師不足や包括的な地域医療構想の移行にはまだ時間を要するため、現状はあまり改善されていません。

進まない医療業務、病院内事務作業の分業化

現在、医療改正の一環で医師のみに許される医療行為の規制を改訂し、救急救命士や看護師等のコメディカルに割り振る動きも始まっています。

それと同様に診療記録作成などの事務作業、患者への説明、病院内の委員会活動など、本当に全てを診療時間の合間を縫って医師がやらなくてはいけない仕事なのか、業務の分担が組織的に出来ていない現状があります。

都道府県の現状

2024年4月から適用される上限規制について、医療機関は各自の取り組みで計画的に取り組むこと、とされています。

施行に向けて厚生労働省より全国の医療機関の準備状況調査が報告されています。

準備状況の進捗は以下の通りです。

都道府県の調査結果(47都道府県)

  • 医師の働き方改革による医療提供体制への影響の把握に関する取組を行っていると回答した都道府県は6都道府県(13%)、今後行う予定の都道府県を含めても28都道府県(60%)。
  • 40都道府県(85%)において、小児・周産期・救急医療提供体制への医師の働き方改革の影響が把握できていなかった。

病院の調査結果(3,613病院。うち大学病院の本院82病院)

  • 全8,193病院の44%、大学病院の本院(防衛医大を含む)については100%・3,613病院のうち、副業・兼業先も含めた時間外・休日労働時間を概ね把握していると回答した病院は1,399病院(39%)。
  • 大学病院の本院82病院のうちでは20病院(24%)。

調査の結論

  • 現時点で時間外・休日労働時間を把握できている病院が4割程度のため、今回の調査では病院の準備状況等、総合的な評価は困難。
  • 医師派遣に関する問では、回答する病院によって「派遣」の解釈にばらつきがあるなどの課題があった。

 

労働時間に関する取り決めが順守していないことが発覚すれば罰則規定にも抵触するので早急な対応が必要です。

医師の派遣の削減・中止という問題も

医師のアルバイト等も超過勤務時間に算入されてしまうため、大学病院や地域の病院への医師派遣が改革に対応するために中止される見込みがある、という問題も生じています。

以下は厚生労働省の令和4年6月の聞き取り調査の結果です。

 

2024年4月以降の時間外・休日労働時間が960時間を超える医師がいる見込みがあると回答した大学病院の本院69病院及び地域医療支援病院212病院のうち、

  • 現在、医師派遣を行っている病院は大学病院の本院では68病院(99%)、地域医療支援病院では110病院(52%)。
  • このうち、現時点で今後の常勤医師派遣の中止・削減の予定がある病院は、大学病院の本院では42病院のうち4病院(10%)、地域医療支援病院では36病院のうち2病院(6%)。
  • また、現時点で今後の非常勤医師派遣の中止・削減の予定がある病院は、大学病院の本院では50病院のうち2病院(4%)、地域医療支援病院では72病院のうち7病院(10%)。
  • 中止・削減の予定については、現時点での状況を尋ねているため、今後の対応が未定の病院は「中止・削減の予定なし」と回答していると考えられる。

 

この医師派遣の中止・削減理由の最多の要因は「医師の働き方改革への対応」が大学病院の本院で6件、地域医療支援病院で3件とそれぞれ最多となっていました。

医師の働き方改革についてのまとめ

超過勤務に対する改革は実に71年ぶりとなる今回の改訂において、常態化してきた医師の働き方について、根底からの見直しが必要となっています。

シフト勤務のあり方だけではなく、医師の担う業務の仕分け、他コメディカルへのジョブシフト、地域医療構想、患者の病院へのかかり方など、実に多岐にわたる我が国の医療の構造的な改革になると言えます。

 

しかし、各都道府県、医療機関の取り組みは未だ準備段階であり、適切な医療を全ての住民に提供しつつも、一人当たりの勤務時間の短縮を補う医師の業務、マンパワーをどのようにカバーするかが大きな課題となっていくでしょう。