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医師のともコラム

COLUMN

医療DXの現状と課題:医師が真に理解すべき「変革の本質」

 

電子カルテの導入、オンライン診療の普及、AI診断支援システムの登場…。

 

医療現場においても、デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せ、その変革は日々加速しています。

 

しかし、現場の医師からは、「DXは本当に医療の質向上に繋がるのか」「多忙な診療の合間に、新たなシステムに対応できるのか」といった疑問の声も聞かれます。

 

今回は、医療DXの現状と課題、そして医師が真に理解すべき「変革の本質」について、具体的なデータや事例を交えながら解説していきます。

 

医療DX:医療現場が抱える課題を解決する糸口となるか

 

医療DXとは、医療分野において情報通信技術(ICT)を活用し、医療の質向上、業務効率化、医療従事者の負担軽減などを目指す取り組みです。

 

具体的には、オンライン診療、電子カルテ、医療情報連携、AI・ビッグデータ活用など、多岐にわたる技術やサービスが含まれます。

 

これらの技術革新は、高齢化の進展、医療費の増大、医師の偏在化など、複雑化する医療現場が抱える様々な課題を解決する糸口として期待されています。

 

オンライン診療:診療の垣根を超える、新たな可能性

 

オンライン診療は、電話やインターネットなどを用いて、遠隔地にいる患者に対して診察、診断、薬の処方等を行うものです。

 

2018年4月のオンライン診療の診療報酬算定開始以降、徐々に普及が進み、特に地理的・時間的な制約を抱える患者にとって、新たな選択肢となっています。

 

オンライン診療の現状:普及状況と今後の展望

 

厚生労働省の調査によると、オンライン診療を導入している医療機関の割合は、2020年4月時点で約16%にとどまっていましたが、2023年3月時点では約37%にまで増加しています。

 

参考:厚生労働省「オンライン診療の適切な実施について」

 

政府は、2025年までにオンライン診療を実施する医療機関を7割に引き上げる目標を掲げており、今後もオンライン診療の普及が進むと予想されます。

 

オンライン診療のメリット:患者と医師双方にとっての利点

 

オンライン診療は、患者と医師双方にとって、様々なメリットをもたらします。

 

患者にとってのメリット

 

自宅にいながら診察を受けられるため、通院の負担が軽減されます。

 

時間や場所を選ばずに診察を受けられるため、仕事や家事、育児などで忙しい人でも受診しやすくなるでしょう。

 

また、地方在住など、専門医のいる医療機関へのアクセスが難しい患者でも、質の高い医療を受けられるようになります。

 

医療機関・医師にとってのメリット

 

患者が来院する必要がないため、院内感染のリスクを抑制できます。

 

電話やメールでの問い合わせに対応する時間を減らし、より診療に集中できるようになります。

 

オンライン診療の課題と展望:克服すべき課題と今後の展望

 

オンライン診療は、医療現場の様々な課題を解決する可能性を秘めている一方、克服すべき課題も残されています。

 

対面診療との連携

 

オンライン診療は、あくまでも対面診療を補完する手段という位置付けであり、オンライン診療だけで完結する医療行為は限られています。

 

対面診療とオンライン診療を適切に組み合わせ、患者にとって最適な医療を提供していくことが重要となります。

 

診療報酬

 

オンライン診療の診療報酬は、対面診療よりも低い水準に設定されており、医療機関側の導入意欲を阻害する要因となっています。

 

オンライン診療を本格的に導入する医療機関が増加するためには、診療報酬体系の見直しが必要となる可能性があります。

 

セキュリティ・個人情報保護

 

オンライン診療では、患者情報がインターネットなどのネットワークを通じてやり取りされるため、セキュリティ対策や個人情報保護の徹底が不可欠です。

 

医療機関は、オンライン診療システムのセキュリティ対策、患者情報の取り扱いに関する職員教育などを徹底する必要があります。

 

オンライン診療は、今後ますます普及していくと考えられますが、その過程において、対面診療との適切な連携、診療報酬体系の見直し、セキュリティ対策の強化など、様々な課題を解決していく必要があります。

 

電子カルテ:医療情報の中核を担うシステム

 

電子カルテは、紙のカルテを電子化したもので、医療機関における患者情報の記録、保管、共有などを効率化することができます。

 

近年では、単なる電子化にとどまらず、様々な機能が追加され、進化を続けています。

 

電子カルテの現状:導入状況と今後の展望

 

日本医師会が2022年に実施した調査によると、電子カルテを導入している医療機関の割合は84.6%に達しており、医療現場におけるICT化の中核を担うシステムとなっています。

 

参考:日本医師会「令和4(2022)年度診療所等におけるICT化に関する実態調査報告書」

 

政府は、2025年までに全ての医療機関で電子カルテを導入することを目標としており、将来的には、電子カルテシステムを通じて、医療機関間での患者情報の共有が促進されることが期待されています。

 

電子カルテのメリット:医療現場にもたらす恩恵

 

電子カルテは、従来の紙カルテと比較して、様々なメリットがあります。

 

業務効率化

 

患者情報の検索や入力の手間が省け、事務作業の効率化に繋がります。

 

過去の診療記録や検査データなどを容易に参照できるため、診療時間の短縮にも貢献します。

 

医療安全の向上

 

電子カルテシステムは、入力ミスや転記ミスなどを防止する機能を備えており、医療安全の向上に繋がる可能性があります。

 

アレルギー情報などを共有することで、医療事故のリスク軽減も期待できます。

 

医療情報連携の推進

 

電子カルテシステムを通じて、医療機関間で患者情報を共有することができるため、医療連携の推進に役立ちます。

 

患者の転院時などに、診療情報がスムーズに引き継がれることで、患者にとっても安心安全な医療の提供が可能となります。

 

電子カルテの課題と展望:更なる進化に向けた取り組み

 

電子カルテは、医療現場に多くのメリットをもたらす一方、更なる進化に向けた課題も存在します。

 

標準化の推進

 

現在、電子カルテシステムは、様々なベンダーから提供されており、システム間での互換性が低いという課題があります。

 

電子カルテシステムの標準化を進めることで、医療機関間での情報共有をより円滑にすることが求められます。

 

セキュリティ対策の強化

 

電子カルテシステムには、患者の重要な個人情報が蓄積されているため、セキュリティ対策の強化が不可欠です。

 

医療機関は、不正アクセスや情報漏えいなどを防ぐため、適切なセキュリティ対策を講じる必要があります。

 

AI・ビッグデータとの連携

 

電子カルテシステムに蓄積された膨大な医療データを、AIやビッグデータ解析技術と連携させることで、新たな医療技術の開発や医療の質向上に繋げることが期待されています。

 

電子カルテは、医療情報のプラットフォームとしての役割を担い、今後も進化を続けていきます。

 

標準化の推進、セキュリティ対策の強化、AI・ビッグデータとの連携など、様々な課題を解決していくことで、電子カルテは、より安全で質の高い医療の実現に貢献していくことが期待されています。

 

医療DX:未来の医療を創造する「進化」を

 

医療DXは、医療現場に大きな変化をもたらし、患者中心の質の高い医療の提供、医療従事者の働き方改革、医療費の抑制などに貢献することが期待されています。

 

オンライン診療、進化した電子カルテ、医療情報連携、AI・ビッグデータ活用…これらの技術は、医師を様々な形でサポートし、患者との距離を縮めるための「ツール」となります。

 

新しい技術の導入には、解決すべき課題も多く、その進展には医療現場の意識改革も必要となるでしょう。

 

しかし、医療DXが目指す未来は、医師と患者、双方にとってより良い医療環境の実現です。

 

医療DXという進化がもたらす可能性を理解し、積極的に活用していくことで、医療現場が抱える課題を克服し、未来の医療を創造していくことができるのではないでしょうか。