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医師のともコラム

COLUMN

個別化医療、そして未来へ:がんゲノム医療と免疫療法が拓く新たな治療戦略

 

がん治療は、近年目覚ましい進歩を遂げています。

 

特に、がんゲノム医療や免疫療法といった新たな治療法の登場は、従来の標準治療では奏効が難しかった患者さんにも、新たな治療の選択肢を提供しています。

 

本稿では、がん治療における個別化医療・精密医療の進歩について、特にがんゲノム医療と免疫チェックポイント阻害剤治療に焦点を当て、最新の知見と課題、そして未来への展望について、医師の皆様とご一緒に考えていきたいと思います。

 

がんゲノム医療:遺伝子情報を活用した最適な治療戦略

がんゲノム医療とは:個別化治療を実現するための羅針盤

 

がんは、遺伝子の異常によって引き起こされる病気です。


がんゲノム医療とは、がん細胞の遺伝子を網羅的に解析することで、そのがんに特有の遺伝子変異を見つけ出し、患者さん一人ひとりに最適な治療法を選択・開発することを目指す医療です。

参照:国立がん研究センター がん情報サービス「がんゲノム医療」


従来の標準治療では、がんの種類や進行度によって治療法が決められていましたが、がんゲノム医療では、患者さんのがん細胞にどのような遺伝子変異が起きているかを詳細に解析することで、より個別化された治療選択が可能となります。

 

がん遺伝子パネル検査:保険診療での実施と課題

 

がんゲノム医療の中核となる検査が、がん遺伝子パネル検査です。


この検査では、一度に数百種類のがん関連遺伝子を解析し、治療標的となる遺伝子変異や、治療方針決定に役立つ情報を得ることができます。

参照:国立がん研究センター がん情報サービス「がん遺伝子パネル検査」

 

20196月からは、がん遺伝子パネル検査が保険診療として認められ、より多くの患者さんがこの検査を受けられるようになりました。

 

しかしながら、検査結果の解釈や、遺伝子変異に対応する治療薬の選択には高度な専門知識と経験が必要とされ、適切な医療体制の整備が課題となっています。

 

がんゲノム医療の今後の展望:創薬開発の加速と個別化予防への応用

 

がんゲノム医療は、がん治療の個別化・最適化を実現するだけでなく、新たな創薬開発の進展にも大きく貢献することが期待されています。


患者さんのがん細胞の遺伝子情報を蓄積し、解析することで、がんの発生メカニズムの解明や、効果的な治療標的の特定につながることが期待されています。

 

また、近年では、がんゲノム情報を活用した個別化予防への応用も注目されています。


個人の遺伝的リスクに基づいた、がんの予防法や早期発見法の開発が期待されています。

 

免疫チェックポイント阻害剤:免疫の力を活用した新たな治療戦略

免疫チェックポイント阻害剤とは:がん細胞の免疫からの逃避を防ぐ

 

免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞が免疫の攻撃から逃れるために利用する、免疫チェックポイント分子を阻害することで、免疫細胞のがん細胞への攻撃力を高める薬です。

参照:国立がん研究センター がん情報サービス「免疫チェックポイント阻害剤」

 

免疫チェックポイント分子は、本来、免疫が過剰に働きすぎないようにブレーキをかける役割を担っていますが、がん細胞はこの仕組みを悪用して、免疫の攻撃から逃れています。


免疫チェックポイント阻害剤は、このブレーキを外すことで、免疫細胞が本来の力を発揮し、がん細胞を攻撃できるようにします。

 

免疫関連有害事象:適切な管理と早期発見の重要性

 

免疫チェックポイント阻害剤は、従来の抗がん剤とは異なるメカニズムで作用するため、有効性が高い一方で、自己免疫疾患に類似した様々な副作用が起こることがあります。


これらの副作用は、免疫関連有害事象(irAEs)と呼ばれ、発症する臓器や症状は様々ですが、皮膚障害、下痢、肝機能障害などが多くみられます。

参照:独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「免疫チェックポイント阻害薬による 免疫関連有害事象対策マニュアル」

 

irAEsは、早期発見・早期治療が重要であり、患者さんに対しては、治療前にirAEsに関する十分な説明を行い、治療開始後は定期的な観察が必要です。

 

免疫療法の今後の展望:併用療法の開発と個別化治療の推進

 

免疫チェックポイント阻害剤は、単剤療法だけでなく、他の治療法との併用療法も試みられています。


例えば、抗がん剤や分子標的薬との併用療法により、治療効果の増強や、治療抵抗性の克服が期待されています。

 

また、免疫療法の効果を予測するバイオマーカーの探索も進んでおり、将来的には、バイオマーカーに基づいた、より個別化された免疫療法の提供が期待されています。

 

臨床試験:がん治療の未来を拓くために

臨床試験の重要性:新たな治療法開発と標準治療の確立

 

臨床試験は、新たな治療薬や治療法の効果や安全性を検証するために実施されます。


がん治療の分野では、常に新たな治療法が開発されており、臨床試験を通じて、有効性や安全性が確認された治療法が、標準治療として確立されていきます。

 

患者さんへの情報提供:臨床試験への参加を促すために

 

標準治療では効果が期待できない患者さんや、既存の治療法では治癒が難しいがんを患っている患者さんにとって、臨床試験は新たな治療の選択肢となりえます。


医師は、患者さんに対して、臨床試験の意義や内容、リスクなどを丁寧に説明し、臨床試験への参加を促すことが重要です。

 

倫理的な問題:インフォームド・コンセントの徹底と患者の利益の保護

 

臨床試験の実施にあたっては、患者さんの尊厳と人権を尊重し、倫理的な問題に十分配慮する必要があります。


特に、患者さんに対して、臨床試験への参加は自由意志に基づくものであり、参加を拒否した場合でも、不利益を受けることはないことを、十分に説明する必要があります(インフォームド・コンセント)。

 

治療費の問題:高額な医療費への対応と患者の経済的負担軽減

がん治療費の高額化:先進医療技術の導入と患者の経済的負担

 

がんゲノム医療や免疫療法といった先進医療技術の導入は、がん治療の可能性を広げる一方で、治療費の高額化を招いています。


高額な治療費は、患者さんの経済的な負担となり、治療の継続を困難にする可能性もあります。

 

医師の役割:患者さんの状況に合わせた治療法の選択と情報提供

 

医師は、患者さんの状況や希望を十分に考慮した上で、最適な治療法を選択する必要があります。


その際には、治療費についても十分に説明し、患者さんの経済状況なども考慮しながら、治療方針を決定していくことが重要です。

 

まとめ

 

がん治療の個別化医療・精密医療の進歩は、患者さん一人ひとりに最適な治療を提供するという、がん治療の究極の目標に近づくための大きな前進です。


がんゲノム医療、免疫療法、そして臨床試験は、がん治療の未来を拓く可能性を秘めています。

 

医師は、これらの進歩を正しく理解し、患者さんに適切な情報提供を行いながら、患者さんと共に治療方針を決定していくことが求められます。