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医師のともコラム

COLUMN

医療訴訟事例から学ぶリスクマネジメント:診療現場での法的リスクを回避するために

 

医療現場においては、医師は常に最善の医療を提供することに努めていますが、予期せぬ事態が発生し、医療訴訟に発展するリスクは避けられません。

 

医療訴訟は、医師にとって多大な時間的、精神的、経済的な負担となるだけでなく、医療機関の信頼を失墜させることにも繋がりかねません。

 

本稿では、近年の医療訴訟の傾向を踏まえ、医師が日常診療で直面するリスクと、その回避策について、具体的な訴訟事例を交えながら解説します。

 

医療訴訟の現状

 

 

日本における医療訴訟の件数は、近年増加傾向にあります。

 

背景には、医療技術の高度化に伴い、医療行為の内容が複雑化していること、患者側の権利意識の高まり、医療情報へのアクセスが容易になったことなどが挙げられます。

 

医療訴訟の件数増加に伴い、医師が訴訟リスクについて意識し、未然に紛争を予防するためのリスクマネジメントの重要性がますます高まっています。

 

診療現場における主なリスクと回避策:訴訟事例から学ぶ

 

医師が医療訴訟に発展するリスクを回避するためには、以下の2点が重要となります。

 

患者との信頼関係を構築すること

 

医療行為に関する十分な説明と同意を得ること(インフォームド・コンセント)

 

ここでは、診療現場で特に医療訴訟のリスクが高い場面と、具体的な回避策を、訴訟事例を交えながら紹介します。

 

診断の遅延・誤診:事例から学ぶ

 

診断の遅延や誤診は、患者に重大な不利益をもたらす可能性があり、医療訴訟の主要な原因の一つとなっています。

 

事例1

 

ある医師は、腹痛を訴える患者に対し、問診および身体診察を行いましたが、血液検査などの精密検査を実施せずに「胃腸炎」と診断し、帰宅させました。

 

しかし、その後、患者の病状が悪化し、別の医療機関を受診した結果、「急性虫垂炎」であることが判明し、緊急手術が行われました。

 

この事例では、初期診療医が問診や身体診察だけで「胃腸炎」と安易に診断し、精密検査を実施しなかったことが、診断の遅延につながったと判断されました(20181225日 読売新聞オンラインより引用)。

 

事例2

 

ある医師は、胸の痛みを訴える患者に対し、問診、身体診察、心電図検査を実施しましたが、「不安神経症」と診断し、帰宅させました。

 

しかし、患者はその後、自宅で心肺停止となり、死亡が確認されました。

 

後日、司法解剖の結果、患者は「急性心筋梗塞」であったことが判明しました。

 

この事例では、初期診療医が心電図検査以外の検査を十分に実施しなかったこと、患者の訴えや症状を軽視していた点が問題視されました(2020310日 朝日新聞デジタルより引用)。

 

事例3

 

ある医師は、激しい頭痛と嘔吐を訴える患者に対し、「片頭痛」と診断し、鎮痛剤を処方して帰宅させました。

 

しかし、患者の症状は改善せず、その後、別の医療機関を受診した結果、「くも膜下出血」であることが判明しました。

 

この事例では、初期診療医が問診時に患者の症状や訴えを軽視し、緊急性の高い疾患の可能性を十分に検討しなかったこと、必要な検査を速やかに実施しなかったことが問題視されました(202271 NHK NEWS WEBより引用)。

 

リスク

 

がん、心筋梗塞、脳卒中など、緊急性の高い疾患において、初診時における問診、診察、検査が不十分で、診断が遅れたり、誤診したりすると、適切な治療開始が遅れ、病状の悪化や後遺症のリスクが高まります。

 

このような事態は、医療訴訟に発展する可能性があります。

 

回避策

 

問診・診察を丁寧に行う: 患者の訴えに耳を傾け、現在の症状、既往歴、家族歴などを丁寧に聞き取ることが重要です。

 

身体診察を適切に実施する: 患者の訴えに基づき、視診、聴診、打診、触診などを適切に実施し、異常の有無を慎重に確認します。

 

必要な検査を適切なタイミングで実施する: 診断に必要と考えられる検査を、適切なタイミングで実施し、客観的なデータに基づいて診断を行います。

 

特に緊急性の高い疾患が疑われる場合は、安易に診断を下すことなく、精密検査を積極的に検討する必要があります。

 

セカンドオピニオンを推奨する: 患者が希望する場合、または医師が必要と判断する場合は、セカンドオピニオンを積極的に推奨します。

 

専門医との連携を密にする: 診断が困難な場合や、専門的な知識や技術が必要な場合は、速やかに専門医に紹介し、連携を密にすることが重要です。

 

画像診断における見落とし:事例から学ぶ

 

画像診断は、がんなどの早期発見に非常に有用ですが、画像の読影には高度な専門知識と経験が必要です。

 

画像診断の見落としは、診断の遅延、誤診に繋がり、患者に不利益が生じる可能性があります。

 

事例1

 

ある医師は、健康診断で胸部レントゲン検査を受けた患者の画像を読影した際、小さな陰影を見落としてしまいました。

 

その後、患者は肺がんを発症し、早期発見が遅れたことを理由に、医療機関を相手取って訴訟を提起しました。

 

裁判では、医師の画像読影に過失があったと認定され、医療機関側に損害賠償責任が発生しました(2021413日 時事ドットコムニュースより引用)。

 

事例2

 

ある医師は、腰痛を訴える患者のMRI画像を読影した際、椎間板ヘルニアを見落としてしまいました。

 

その後、患者の症状が悪化し、歩行困難に至ったため、別の医療機関を受診した結果、椎間板ヘルニアの手術が必要な状態であることが判明しました。

 

この事例では、初期の医療機関の医師がMRI画像の読影を誤り、適切な治療開始が遅れたことが、患者の後遺症を大きくしたとして、損害賠償責任を問われました(202358日 産経新聞より引用)。

 

リスク

 

画像診断は、がんなどの早期発見に非常に有用ですが、画像の読影には高度な専門知識と経験が必要です。

 

画像診断の見落としは、診断の遅延、誤診に繋がる可能性があります。

 

回避策

 

専門医によるダブルチェック体制: 放射線科医など、画像診断の専門医によるダブルチェック体制を構築することで、見落としのリスクを低減できます。

 

特に、がんの疑いがある場合などは、複数の医師で画像を確認する体制を整えることが望ましいです。

 

AIを活用した画像診断支援システムの導入: 近年、AIを活用した画像診断支援システムが開発されており、見落とし防止に役立つ可能性があります。

 

画像診断報告書の内容確認: 検査を依頼した医師は、放射線科医が作成した画像診断報告書の内容を必ず確認し、患者への説明に活用する必要があります。

 

過去の画像との比較: 可能な限り、過去の画像と比較することで、微妙な変化を見落とさないように注意する必要があります。

 

医療訴訟事例から学ぶリスクマネジメントまとめ

 

医療訴訟は、その原因の多くが診断や検査、治療におけるミス、そして説明不足によるものであることがわかります。

 

医師は日頃から最新の医療知識と技術を習得し、患者とのコミュニケーションを大切にし、医療ミス防止に努める必要があります。

 

医療機関全体としても、医療安全対策を強化し、医師が安心して医療に専念できる環境を作ることで、医療訴訟のリスクを最小限に抑えることができるでしょう。