医師が転職を考える理由は、年収を上げたい、キャリアアップをしたい、労働環境を改善したいなど様々です。
また、医師の転職先は、市中病院、診療所、自由診療クリニックだけでなく、医療機関以外の勤務先も選択肢として存在します。
本稿では、医師が転職先を選ぶ際に参考となるように、転職したい理由に応じて適した転職先を紹介し解説を行います。
医師が転職を考える理由
転職を医師が考える主な理由として、年収を上げたい、スキルアップをしたい、労働環境や人間関係に不満があるといったものが挙げられます。
それぞれの転職理由に応じて、どのような転職先を検討すればよいのか方向性を提示します。
年収を上げたい
厚生労働省の第22回医療経済実態調査報によると、医師の年収は以下のとおりです。
病院種別 | 職種(病院長を除く) | 平均年収 |
国立病院 | 医師 | 14,011,881円 |
公立病院 | 医師 | 15,108,916円 |
医療法人 | 医師 | 16,321,504円 |
国立病院と医療法人の医師の平均年収を比較すると230万円以上異なるように、医師の年収は、勤務先によって異なります。
また、上記の表の中では最も平均年収の高かった医療法人の中であっても、診療科目によって医師の年収は異なり、特に美容整形外科などの自由診療系の医療機関に勤務する医師の年収は、高い傾向にあります。
さらに、医師の年収は、同じ医療機関に勤める医師の中でも年齢、役職によっても大きく異なります。
年収を上げたい医師に関しては、勤務先による平均年収の格差があることを利用し、まずは平均年収の高い勤務先に移ることを検討しても良いでしょう。
スキルアップ、キャリアアップ
大学院に明確な目的もなく進学し時間を使うよりも、臨床技術を高めるために時間を有効に使いたいという声をよく耳にするようになりました。
今後専門性を深めたい分野が明確にあるのであれば、専門医の取得などに積極的なサポートがある医療機関に転職することも選択肢に入れると良いでしょう。
また、将来開業を考えているのであれば、市中病院で様々な症例を経験する、分院長として経営ノウハウを学ぶ、開業候補地に近い医療機関に勤務し人脈を作るということも視野にいれたキャリアプランも考えられます。
さらに、年齢が40代以上になれば、一人の医師としての能力だけでなく、診療科目をまとめるリーダーとしての役割も求められます。
スキルアップ、キャリアアップを希望している場合は、上記のように今後どのようなキャリアを積んでいきたいのかを考え、実現するためにはどこで働けば良いのか十分に検討することが重要です。
労働環境に不満がある
厚生労働省の令和元年 医師の勤務実態調査によると、時間外労働時間が休日を含めた年間960時間を超えた勤務医は、37.8%というデータがあります。
なお、厚生労働省のSTOP!過労死によると、時間外労働もしくは休日労働時間が月100時間または、2か月から6か月平均で月80時間を超えると、健康障害のリスクが高まるとされています。
勤務医の37.8%が該当する、年間960時間以上という時間外労働は、一ヶ月に平均すると月80時間です。
これは、厚生労働省が指摘する健康被害の恐れがあるほどの時間であり、医師が労働環境に不満を感じ転職を考えることは不思議ではありません。
また、大学病院などの大規模病院に勤務する医師の場合は、時間の拘束だけでなく、当直やオンコールといった身体的、精神的にストレスの掛かる業務が多いことも見逃せません。
労働環境に不満がある場合は、勤務先を変更することを視野に入れてもいいかもしれません。
ご自身のライフステージにあわせて、過剰に負担のかからない勤務先を検討するのもひとつの手段と言えます。
人間関係に悩んでいる
医局内での派閥争いや上下関係といった、人間関係の悩みを抱えた医師の話を聞いたことはないでしょうか。
上下関係が医局の中ではっきりと決まっているため、医局内で上手に立ちまわることができなければ、自分の居場所がなくなってしまう可能性すらあります。
また、医局人事により突然の地方転勤などを明示された場合は、断ることができないというケースが一般的です。
このように、医局での人間関係が医師の大きなストレスの原因となっていることは否定できません。
医局に在籍している限り、これらの医局独特の人間関係から逃れることはできないため、医局の影響が及ばない勤務先への転職も選択肢に入れてもよいかもしれません。
大学病院以外の転職先
医師の転職先として、大学病院以外に市中病院、診療所、自由診療クリニックがあります。
また、医療機関以外の転職先であれば、介護老人施設などの高齢者向け施設や産業医といった転職先も存在します。
これらの転職先に関して、それぞれ解説を行います。
市中病院
厚生労働省の第22回医療経済実態調査にて、国立病院と医療法人の医師の平均年収を比較すると、医療法人の医師の年収が230万円以上高いというデータが示すように、大学病院よりも市中病院に勤務すると給与が高くなることが期待できます。
全国に病院を展開している医療法人でない限り、転居が必要なほどの異動は少ないため、子育てなどで生活基盤を整えたい医師にとっては魅力的な転職先だと言えるでしょう。
また、大学病院ほど細かく診療科が分類されていないため、さまざまな症例を経験することができるという点もメリットとして挙げられます。
診療所
市中病院よりも規模が小さいため、ほとんどの場合は異動を心配する必要は無く、地域の幅広い患者さんを診ることができます。
また、業態によっては当直や夜勤がほとんどないため、労働環境を重視したい医師にとっては適した転職先だと言えます。
自由診療クリニック
一般的に自由診療系といわれるクリニックには、大きく分けてカウンセリング中心のものと、美容系のものがあります。
カウンセリング中心 | 脱毛、AGA、ED |
美容系 | 美容皮膚科、美容外科 |
カウンセリング中心のクリニックは、医師が1名で診療する体制となっていて、院長が休みの日を非常勤やスポットで埋める勤務体系になっていることが多くみられます。
そのため、土日勤務が条件になることも多いですが、シフトの調整をしやすいというメリットがあります。
また、診療時間が20時や21時までと遅い設定が多いため、朝はゆっくりできる反面、夜は遅いもしくは時短勤務が難しいという特徴があります。
さらに、カウンセリング中心のクリニックは、1時間のうち診察時間は5分~30分程度で対応が終わることが多いため、勤務時間中に空き時間が多くできることもあり、論文や勉強、副業などができるというメリットがあります。
ただし、カウンセリング中心のクリニックに転職する場合は、臨床を離れるというリスクがある点も考慮しなければなりません。
美容系のクリニックの場合は、未経験でも常勤であれば教育が受けられるため、転科での入職も多いという特徴があります。
ただし、広告や宣伝のため、医師自らがSNSの投稿などを行い営業を行うケースもあります。
また、美容系のクリニックは、診療時間は遅く、医師としてのスキル以外に、身だしなみやコミュニケーション力も求められる場合もあります。
さらに、大手であれば全国展開しているため、地方出張が必須というケースもあり注意が必要です。
介護老人施設などの高齢者向け施設
高齢化社会の到来により、需要が拡大している施設です。
医師としてのスキルだけでなく、入居している高齢者や家族とのコミュニケーションを潤滑に行う能力が求められます。
また、高齢者施設の施設長の場合は、病院やクリニックのように病気を診ることが少ないということや、土日休みで週に4日〜5日の勤務で働くことができる比較的落ち着いた求人が多いため、労働環境を重視する医師にとって人気の転職先です。
産業医
産業医は、企業の健康診断に対して意見をし、職場の巡視や過重労働者の面談及び改善の提案等を行います。
産業医として働くためには資格の取得が必要ですが、働きやすさの面で産業医には多くのメリットがあります。
常勤の産業医であれば、企業の社員となることが多いので一般的な労働時間で勤務が可能であり、土日祝休みで急な呼び出しは無く、福利厚生が充実している、というようなメリットがあります。
一方、産業医になると臨床現場から離れてしまうということや、年収が上がりにくいというデメリットがあります。
詳しくは、以下の記事で解説をしています。
未経験から始める産業医としての働き方へのリンク
医師の転職先の選び方 まとめ
本稿では、医師が転職先を選ぶ際に参考となる、転職したい理由に応じた転職先に関して解説を行いました。
医師が転職を考える理由は、年収を上げたい、キャリアアップをしたい、労働環境を改善したいなど様々です。
また、それぞれのライフステージに応じて、転職先に希望する条件も変わっていきます。
転職したい理由とご自身のライフプランをかけ合わせ、どの転職先であれば希望を叶えることができるのか十分に検討されることをおすすめします。
記事執筆 医療ライター 土光宜行