産業医はライフワークバランスに優れ働きやすいという理由で、勤務を希望する医師が多いため、競争率の激しい職種です。
労働条件の面で優れていますが、臨床現場には戻りづらいというデメリットもあります。
本稿では、未経験から産業医として働く際にも参考となるように、これらのメリット、デメリットだけでなく、平均年収や産業医のなり方に関しても解説を行います。
産業医の希望者は多い
厚生労働省|現行の産業医制度の概要によると、産業医の養成研修、講習を終了した医師は約9万人存在し、実働は約3万人と推計されています。
一方、専任(常勤)の産業医の設置が義務付けられている1,000人以上の事業所数は、1,944しかありません。
また、50人から999人の事業所に関しても産業医の設置が義務付けられていますが、専任ではなく嘱託で良いため、フルタイムの産業医の求人は非常に少ないと言えます。
そのため、常勤の産業医は、3万人の実働者に対して1,944件の枠しか存在しないため、競争率が15.4倍という非常に狭き門であるという点には注意が必要です。
さらに、常勤の産業医への転職は競争率が非常に高いだけでなく、採用の際に経験者を優遇する傾向があります。
未経験から産業医に転職することは、競争率が高いだけでなく、未経験者にとってハードルが高いという点を、まずは理解する必要があります。
産業医のメリット
産業医の仕事内容は、企業に勤めている方との面談、安全衛生委員会への出席、健康診断結果の判定といった、臨床経験のある医師であれば比較的問題なく行えるものだともいえます。
そのため、仕事内容が「産業医ならではの高度な専門性が求められるようなものではない」という点は、大きなメリットです。
また、産業医は、土日が休み、福利厚生が充実している、急な呼び出しがないといったケースも多く、労働環境が非常に優れている点もメリットとして挙げられます。
そのため、常勤の産業医として勤務できれば、仕事内容の面でも労働環境の面でもメリットが大きいため、ワークライフバランスに優れた働きやすい職種だと言えます。
これらの産業医の大きなメリットである、労働環境の良さに関して詳しく解説します。
土日が休み
常勤の産業医は企業の社員として勤務することになるため、基本的には土日が休みになります。
さらに、残業はほとんど無いため勤務医とは全く異なった働き方をすることができます。
そのため、家族との時間を大切にしたい、子育てと仕事の両立をしたい、当直や休日出勤を避けたい医師にとっては働きやすい環境だと言えます。
福利厚生が充実
常勤の産業医は、1,000人以上の事業所を持つ企業、つまり大企業に勤務するため、大企業の整った福利厚生の恩恵を受けることができます。
有給休暇の取得だけでなく、育休や産休も取りやすい環境にあることは、産業医の大きなメリットだと言えるでしょう。
出産や子育てをしながら働く医師にとっては、大企業の整った福利厚生を利用できる産業医は非常に魅力的な環境です。
急な呼び出しがない
勤務中の急患、オンコールといった急な呼び出しがほとんどないことも、産業医の大きなメリットです。
産業医の主な業務内容は、社員の面談や健康診断に関わる内容であることが多いため、臨床医のように急に呼び出されることがほとんどありません。
急な呼び出しがほぼないため、定時で業務を終了することができ、夕方以降の予定を立てやすいというようなメリットがあります。
産業医のデメリット
常勤の産業医は、仕事内容の面でも労働条件の面でもメリットの大きい、ライフワークバランスに優れた職種ですが、良い点ばかりではありません。
専属の産業医として勤務する場合は臨床の現場から離れることになるため、臨床には戻りづらくなるというデメリットがあります。
臨床医の求人を出している医療機関は即戦力を求めているため、産業医としての勤務期間はプラスに評価されることが少ないという点も注意が必要です。
産業医の平均年収
産業医の勤務形態は、専属産業医と嘱託産業医とでは大きく異なり、給与に関しても大きく異なります。
専属産業医の場合は、正社員もしくは契約社員としての契約となり、年収は週5日で1,200~1,400万円というケースが多いです。
一方、嘱託産業医の場合は、業務委託の契約となるため「週に1回勤務、時給○万円」といった給与の支払い方になります。
専属産業医と嘱託産業医のそれぞれの平均収入に関して、解説します。
専属産業医
専属産業医、つまり常勤の産業医の平均年収について表にまとめました。
平均年収 | 1,300万円前後(週5日勤務)
※正社員でも契約社員でも求人に出されている年収に大差はない |
出勤日数 | 週に4日もしくは5日
※企業によって異なる |
雇用形態 | 契約社員もしくは正社員
※契約社員の求人のほうが多い |
産業医を希望する医師が多い理由として、産業医の業務内容や労働環境の良さに対して、1,200~1,400万円もの年収がもらえるという条件の良さが挙げられます。
嘱託産業医
嘱託産業医の場合は、「月に1回勤務、1日当たり○万円」といった日雇いのアルバイトのような給与の支払い方になります。
勤務先の企業によって、嘱託産業医の勤務時間や給与は大きく異なります。
一般的な嘱託産業医の求人の例を、表にまとめました。
勤務時間 | 月1回(第四水曜日)
9:00 – 12:00 |
週1回(平日)
9:00 – 17:00 |
週2回(木と希望日)
8:00 – 17:00 |
給与 | 4万5000円/日 | 1万2000円/時
(8万4000円/日) |
1万円/時
(8万円/日) |
このように、嘱託産業医の仕事はアルバイト感覚で行える業務です。
また、専属の産業医になることを希望しているなら、まずは嘱託の産業医として業務経験を積みながら専属産業医の求人が出るタイミングを待つと良いかもしれません。
産業医になる方法
産業医になるためには、研修を終了し産業医の資格を取得する必要があります。
専任の産業医の求人数は少ないため、求人が出たタイミングで応募し合格すれば、専任(常勤)の産業医になることができます。
これらの産業医になる方法に関して、解説を行います。
産業医の資格を取得する
産業医として勤務するためには、医師免許の他に労働安全衛生規第14条2項に定められている要件を満たしている必要があります。
- 労働者の健康管理等(以下「労働者の健康管理等」という。)を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であつて厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者
- 産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であつて厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であつて、その大学が行う実習を履修したもの
- 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの
- 学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師(常時勤務する者に限る。)の職にあり、又はあつた者
- 前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者
産業医の資格取得をするうえで一般的な方法は、上記の1番に該当する日本医師会、または産業医科大学で研修を受けるというものです。
日本医師会の研修は、各都道府県の医師会が主催するケースが一般的です。
東京都医師会の場合は、都道府県医師会などが実施する基礎研修を50単位以上終了していれば産業医の資格申請を行うことができます。
産業医科大学の研修講座は、6日間50時間の集中講座が実施されています。
研修終了後は、日本医師会へ申請することにより産業医の資格を取得することができます。
このように産業医の資格は研修を修了すれば取得できるため、ハードルはそこまで高くないと言えるでしょう。
嘱託産業医で経験を積む
産業医の資格を取得したからといって、すぐに専任(常勤)の産業医になれるとは限りません。
産業医を希望する医師の数は多い一方、専任の産業医の求人は少ないため、未経験の産業医では求人に応募しても不採用となる可能性が高いという点には注意が必要です。
また、専任の産業医の求人自体が少ないため、産業医の求人が出るまで待つ必要もあります。
さらに、産業医として勤務を始めたとしても企業側で手厚い研修などを期待することはできません。
そのため、まずは嘱託でも良いので産業医として勤務することにより、産業医の業務経験を積みながら専任の産業医の求人が出るタイミングを伺うことをおすすめします。
記事執筆 医療ライター 土光宜行