AIは、人間が行っている様々な業務を代わりに行うと言われています。
医療現場が抱えている問題を解決する手段として、AIには高い期待が寄せられていますが、メリットばかりではなくデメリットも存在しているのが現状だといわれています。
本稿では、これらの内容に加え、医療でのAI活用の事例を紹介し、AI活用をすすめる上での課題についても解説します。
AIとは
AI(Artificial Intelligence)とは、「人間の様々な知覚や知性を人工的に再現するもの」です。
AIは、コンピューターサイエンスだけでなく、認知科学、心理学、哲学、そして医学の領域でも用いられるようになりました。
AIの身近な活用事例として、車の自動走行が挙げられます。
車に障害物や歩行者を感知するセンサーを取り付け、人間の脳神経回路を参考にしたアルゴリズムである、ディープラーニングによって膨大なデータを読み解くことで、人間が運転しなくても車が自動的に障害物や歩行者を避けながら走行します。
医療の分野でもAIの活用によって、医療従事者にも患者にも多くのメリットがあると期待されています。
医療分野でAIを活用するメリット、デメリット
医療現場が抱えている問題を解決する手段として、AIには高い期待が寄せられていますが、メリットばかりではなくデメリットも存在することには注意しなければなりません。
AIを活用するメリット、デメリットに関して解説します。
メリット
AIを活用することで、以下の表にまとめた医療現場を取り巻く問題を解決することが期待されています。
問題 | 詳細 |
医師の人材不足 | 医療従事者の不足(少子高齢化)
地域偏在 診療科偏在 |
医師の過重労働 | 長時間労働
時間外、休日労働 |
医療の均一性の確保 | 全国どこでも質の高い医療の提供
経験に左右されない、高水準で均一な診断、診療 |
これらの問題を解決するために、AIの活用が期待されています。
医療分野でAIを活用するメリットをまとめたものが、次の表です。
メリット | 例 |
医療の均一性の確保 | 画像診断AIによる診断サポート |
医療従事者の負担を軽減 | 膨大な論文をAIで分析し、適した治療法を提案 |
新たな診断方法や治療方法の発見 | 創薬候補をAIによる分析で発見 |
AIを医療分野で活用することで、画像診断や患者に適した治療法提案のサポートが得られるため、メリットがあると考えられています。
特に、地域偏在や診療科偏在で医師が少ない現場では、AIによるサポートの恩恵は大きいでしょう。
また、今まで有効な治療法が無かった疾病に対して、新たな創薬候補をAIが発見することも期待されている他にも、ゲノム解析、患者のモニタリング、X線画像診断、内視鏡など様々な領域での活用研究が行われています。
AIが医師の業務を様々な面からサポートすることで、医師の過重労働の改善にも貢献できるかもしれません。
このように、AIを活用することで、現在の医療業界が抱えている、医師の人材不足、医師の過重労働、医療の均一性の確保といった問題解決につながることが期待されています。
デメリット
AIの活用により、医療の質が向上し、医師の負担が軽減するだけでなく、医療の均一性も担保できるというメリットがあります。
しかし、AIを活用する上で、以下のデメリットも存在することには注意が必要です。
デメリット | 詳細 |
AIを活用した診断を行った場合の責任の所在はどうなるのか | 例えば、AI画像診断によるサポートを受けた場合、診断を行った医師が最終的な判断の責任を負うべきなのか。
最終的な診断を行うためのサポート体制の整備や、診断結果に対して専門の医師に照会できる体制の構築が必要。 |
AIによる診断サポートに過剰に依存した診療が浸透するのではないか | AIはあくまでサポートであるにも関わらず、医師が最終判断までAIにゆだねてしまうのではないか。 |
期待される結果が得られない場合、患者とのトラブルが増加するのではないか | AIを用いる際は、患者へのインフォームド・コンセントが重要。 患者に「AIを活用したため提供する医療の質が低下した」と思われるのではないか。 どのように患者に説明すれば、納得してもらえるのか手法が整備されていない。 |
民事訴訟につながった場合、最終的な責任は医師が負うべきなのか | AIの製造販売業者は責任を負うべきなのか。 民事訴訟になった場合、製造者側に責任があるのか、使用者である医師に責任があるのか明確に定まっていない。 |
このように、医療分野でのAI活用はメリットばかりでなくデメリットも存在します。
最終的な医療サービスの提供先である患者への影響も大きいため、AI活用は慎重に進める必要があるといえるでしょう。
医療でのAI活用の事例
海外でのAI活用の事例が、厚生労働省)保健医療分野におけるAI開発の方向性についての資料で紹介されています。
2016年に行われたコンテスト「Researcher challenge competition(CAMELYON16)」において、AIが乳がんの転移を調べるための画像判定に挑戦し、11人の病理医と成績を比較した結果、優勝した研究チームが開発したAIのAUCは0.994であり、11人の病理医の平均値である0.810を大幅に上回ったという事例です。
また、この資料では、AIの実用化が比較的速い領域として、次の4つの領域が紹介されています。
- ゲノム医療
- 画像診断支援
- 診断、治療支援(問診や一般検査)
- 医薬品開発
一方、介護・認知症、手術支援への活用に関しては、段階的に取り組むべき領域として紹介されています。
このように海外だけでなく、日本でもAIの実用化に向けて研究が進められています。
医療でのAI活用をすすめる上での課題
AIがディープラーニングを行い学習を進めるためには、「教師ありデータ」が必要となります。
AIを活用する領域において教師ありデータを大量に準備できるかどうかが、医療でのAI活用をすすめる上での課題として挙げられます。
AIがディープラーニングを行う際に課題に関してまとめたものが、次の表です。
内容 | 詳細 |
教師ありデータの準備 | AIが学習するためには、大量の正解データが必要。
正解データの質が不十分(診断結果が適切に分類されていない、病変部が適切に囲まれていない)場合は、正解データを大量に手作業で準備する必要がある。 |
データが少ない領域での学習 | 症例数が少ない疾病に関しては、十分な教師ありデータの数を準備することが難しい。 |
学習用データの注意点 | 気胸の写真のほぼ全例に挿入されている胸腔ドレーンなど、AIが誤って学習してしまう要素がデータに含まれている |
学習データの偏り | AIでの学習データに人種的な偏りがある場合、学習データに用いた人種と異なる患者は恩恵を受けられない可能性がある。 |
また、AIの下した判断の根拠はブラックボックスとなっているため、なぜAIがこの判断を下したのかという経緯や文脈といった情報が得られないという点も課題として挙げられます。
患者へのインフォームド・コンセントという観点から考えると、「なぜこの診断に至ったのか説明しにくい」という点は、AIを活用する上で注意すべき内容だと言えます。
さらに、現在のAIでは特定の疾患や所見といった狭い領域でのデータ学習による診断、分類、予測に留まっているため、初診医療のように何の疾患か特定できていない段階でのAIの活用は難しいのが現状です。
今後の展望
AIは、一般的には人間が行っている様々な業務をAIが代わりに行うようになると言われています。
しかし、医療領域においては、患者の客観的なデータでは把握しきれない、患者が抱える悩みや他人には言いにくい事情があるケースがあるため、データ分析の結果のみからAIが出した提案では患者が納得しない恐れがあります。
また、AIは、過去のデータに基づいて学習しているに過ぎないため、過去にはなかった新規の事象に対しては精度が著しく低下する可能性も否定できません。
そのため、医療現場においては、医師の代わりにAIによる予測をそのまま用いるのではなく、AIによる予測を踏まえて医師が様々な状況を踏まえた上で最終的な判断を下すことが必要となることが予測されます。
まとめ
本稿では、医療領域でのAIの活用に関する、現状の課題と今後の展望に関して解説を行いました。
AIを活用することで、医師の人材不足、医師の過重労働、医療の均一性の確保といった問題を解決することが期待されますが、デメリットも存在するため慎重に進める必要があります。
課題はあるものの、海外を始め日本でもAIの導入研究は進められており、実用化が期待されています。
現在の医療業界が抱えている問題を解決するためにも、AIを使いこなす必要性は高まるため、今後の医療業界では、AIを使いこなすための知識や技術が医師に求められるのではないでしょうか。
記事執筆 医療ライター 土光宜行