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医師のともコラム

COLUMN

ブルーライトだけが悪者ではない? 睡眠医学が教えてくれた本当に大切なこと

 

「寝る前にスマートフォンを見ると眠れなくなるから、ブルーライトを避けましょう。」

 

この言葉を一度は耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

 

実際、ここ10年ほどでブルーライトは睡眠の大敵として広く知られるようになりました。

 

しかし、睡眠医学の研究はこの数年で大きく進歩しています。

 

現在では、「ブルーライトは睡眠に影響する」という事実そのものは変わりませんが、それ以上に重要な要因があることも分かってきました。

 

つまり、「スマホ=ブルーライト=悪」という単純な話ではなくなってきているのです。

 

 

ブルーライトが睡眠に影響する理由

 

 

まず、ブルーライトが睡眠に影響すること自体には、十分な医学的根拠があります。

 

私たちの脳には「体内時計」があり、朝に光を浴びることで一日のリズムが整えられています。

 

夜になると、眠気を誘うホルモンであるメラトニンが分泌され、自然な眠気が訪れます。

 

しかし夜間に強い光、とくに短波長の青色光を浴びると、脳は「まだ昼間だ」と判断し、メラトニンの分泌が抑えられます。

 

その結果、寝つきが悪くなったり、睡眠のタイミングが後ろへずれたりすることがあります。

 

有名なのがハーバード大学の研究です。

 

健康な若年成人に就寝前5日間、電子書籍を読む群と紙の本を読む群を比較したところ、電子書籍を読んだ群ではメラトニン分泌が抑制され、入眠まで約10分長くかかり翌朝の眠気も強く残りました。

 

この研究によって、「ブルーライトは睡眠に悪い」という考え方が世界中へ広まりました。

 

 

ところが、その後の研究で見えてきたこと

 

 

ところが近年、世界中の研究をまとめたシステマティックレビューでは、少し違った景色が見えてきました。

 

ブルーライトによる睡眠への影響は確かに存在しますが、その大きさは「思われていたほどではない」可能性が示されています。

 

例えば、ブルーライトによる入眠時間の延長は平均すると数分から10分程度という報告が多く、一方で夜間にスマートフォンを長時間使用する人では、就寝時刻自体が1時間以上遅れることも少なくありません。

 

つまり、多くの人では「ブルーライトそのもの」よりも、「気づけば深夜まで動画を見ていた」「SNSを見続けて寝る時間が遅くなった」という生活習慣の方が、睡眠不足に与える影響は大きい可能性があるのです。

 

さらに、ゲームやSNSは内容そのものが脳を興奮させます。

 

夜間の通知音や着信によって睡眠が何度も中断されることも、不眠症状と強く関連することが分かっています。

 

 

「光」よりも「明るさ」が重要という考え方も

 

 

さらに興味深い研究があります。

 

以前は「青い光だけ」が問題と考えられていましたが、最近では「光の色」よりも「光の明るさ」の方が体内時計に与える影響が大きいという報告も出てきています。

 

実際、室内照明(約200ルクス)のような一般的な明るさでも、多くの人でメラトニン分泌開始が遅れることが報告されています。

 

つまり、スマートフォンだけを悪者にするのではなく、夜の生活全体を少し暗めに整えることが大切なのです。

 

 

ブルーライトカット眼鏡は意味があるの?

 

 

これも最近よく質問を受けます。

 

昼間にブルーライトを過度に避けることはおすすめできません。

 

日中の光は体内時計を整えるために欠かせないからです。

 

一方で、夕方から夜にかけては話が変わります。

 

睡眠・覚醒相後退障害(夜型になってしまう睡眠障害)を対象としたランダム化比較試験では、夕方以降にブルーライトカット眼鏡を使用することで、睡眠の質や睡眠リズムが改善したことが報告されています。

 

つまり、「一日中ブルーライトを避ける」のではなく、「夜だけ光をコントロールする」という考え方が現在の睡眠医学には合っています。

 

 

睡眠専門医として皆さんにお伝えしたいこと

 

 

睡眠外来で患者さんを診ていると、「ブルーライトカットモードにしたから大丈夫」と安心されている方が少なくありません。

 

しかし実際には、その後も動画を見続け、気づけば午前1時、2時になってしまっているケースが非常に多いのです。

 

睡眠にとって本当に重要なのは、「ブルーライトをゼロにすること」ではありません。

 

毎日ほぼ同じ時間に眠ること。

 

夜は部屋の照明を少し落とすこと。

 

そして、スマートフォンを見る時間そのものを少し短くすること。

 

こうした小さな積み重ねの方が、睡眠の質を改善する効果ははるかに大きいと考えられています。

 

ブルーライトは確かに睡眠に影響します。しかし、現在の睡眠医学では、「ブルーライトだけが悪者ではない」ということが分かってきました。

 

スマートフォンを完全にやめる必要はありません。大切なのは、夜の光との付き合い方、そしてスマートフォンとの距離感です。

 

睡眠は毎日の習慣の積み重ねで決まります。今日からできる小さな工夫が、明日の目覚めを大きく変えてくれるかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

執筆:後平 泰信先生

 

医療法人徳洲会札幌もいわ徳洲会病院長/虎の門病院睡眠呼吸器科非常勤医師。

旭川医科大学を卒業後、札幌東徳洲会病院で循環器内科の初期・後期研修を修了。

2014年に札幌徳洲会病院循環器内科に着任し診療経験を重ね、2023年4月に睡眠・無呼吸・遠隔医療センター長に就任。

2024年4月から札幌外科記念病院 病院長、2025年10月より現職。

中国における在留邦人向けの遠隔睡眠診療プロジェクトや、体位療法寝具などのスリープテック製品の企画・開発にも参画。

論文執筆や専門誌寄稿、市民向け講座やテレビ・新聞・Webメディアでの情報発信を通じて、エビデンスに基づくわかりやすい解説と患者一人ひとりに寄り添う診療を実践している。

 

  • 日本内科学会認定内科医
  • 日本循環器学会循環器専門医
  • 日本睡眠学会総合専門医・指導医
  • 日本スポーツ協会公認スポーツドクター