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徹底解説!USMLE ~世界で活躍する医師へのパスポート~

医療人であれば誰しも一度は大志を抱いたことがあるのではないでしょうか。

「アメリカで最先端の医療の研鑽を積みたい」「自分が培ってきた臨床経験が海外の病院で通用するのか腕試しをしてみたい」「世界の医療に貢献する医療人を目指したい」・・・

 

アメリカで医師としてトレーニングを受けるということは、多様な人種や民族が暮らす国で日本ではなかなか出会えない疾患や、スピーディでダイナミックな最先端の治療方法を日々目の当たりにする中で、医師自身の技術向上、キャリアアップのための選択肢を大きく広げます。

また、米国発の新しい医療を日本に持ち帰り、その道のエキスパートとして国内での活躍も望まれることでしょう。

 

しかし、そのためにはまず①米国医師国家試験であるUSMLEをパスし、②ECFMG certificateを取得、③マッチング資格を得る、という3つの壁を越えなくてはいけません。

真に世界で活躍できる医療人の育成を目的として、既に臨床経験のある医師だけではなく、医学部においてもUSMLE受験のフォロー体制を整えている大学が増えてきました。

 

この記事では、国際的な医療人として活躍する未来を夢見て、世界へ羽ばたくためのまずは最初の関門であるUSMLEについて丁寧に解説していきたいと思います。(※コロナ禍の影響で受験方法等に変更が生じていますので随時USMLE公式HPにて最新情報をご確認ください。)

USMLEとは(United States Medical Licensing Examination)

米国医師国家試験を指し、試験はすべて英語で実施され、最初の受験から7年以内に全てのSTEPに合格することが必要です。

日本の医学部で学んできた受験者にとっては語学が大きな障壁となります。

受験資格

現在は医学部を卒業、または在籍している者であれば受験することができます。(しかし2023年以降は一定の基準を満たした大学の学生・卒業生のみに受験資格が与えられるという規定の改定が行われる予定です。)

各Stepの詳細

STEP1:基礎医学

医学部で履修する科目が中心となるので、学部4年時点での合格を目標としている大学も多いです。

従来、この分野でアメリカ人受験者よりも高得点を獲得し、アピールすることが語学で得点を稼げない外国人受験者の必須条件と言われてきました。

しかし、2020年2月のポリシー変更に伴い、スコアが廃止となったため、ほかの方法でアピールする必要があります。

そのため、満点に近い高得点を目指してSTEP1にかけていた勉強時間の配分等も調整する必要が出てくるでしょう。

STEP2:Clinical Knowledge(CK)臨床医学

こちらも医学部で履修する科目が中心とはなりますが、実際の臨床現場での知識が活かせるので既に臨床経験を積んだ医師には有利な科目です。

したがって、医学生よりも臨床研修後に受験することをお薦めします。

STEP3:(CS)

コロナの影響により2021年1月26日時点でSTEP2のCSの中止が正式に決定されたので、外国語試験として今後OET(Occupational English Test)のスコア取得(全ての項目でB判定以上)がその代用になるかと予想されます。

今後はオンラインで日本国内にて受験できるようになるため、従来のように受験のために渡米し、10人以上の患者と模擬面談、カルテを書くという時間のかかるテストは行われないことになります。

以前のテスト内容に比べれば外国人受験者にはプレッシャーが低減したのではないかと思われます。

STEP4:医療知識と実践、医療統計、疫学などに関する総合的な試験

米国国内での受験になります。試験は2日がかりで行われます。

試験内容はSTEP2のCKと同じような内容ですが試験の二日目にシミュレーターを使用した想定問題があります。

模擬の患者、電子カルテ、血液検査項目、画像検査項目、治療薬の選択、最終的な診断を確定するなど、実際の診療そのものを1から全て行う試験です。(フェローの申請についてはSTEP3が不要な大学もあるので出願先の情報を確認してください。)

受験方法

最初に受験方法に関する概要を説明します。

 

USMLEは3か月単位で受験期間を設定できます。(例:123月を指定し、その期間内で希望日を決定)

ただし、順調にいっても受験日の決定に至るまでには煩雑な手続きが必要で、1か月は見込んだ方がいいでしょう。

また、STEP1、STEP2ともに日本国内で受験できますが、STEP3は渡米する必要があります。

勤務先や学校との調整も必要になってきますので、入念な準備が大切です。

 

以下、書類等の大まかな手続き方法について記載します。

 

Ⅰ、ECFMG でのID作成

 

Ⅱ、ECFMG Certificate の申し込み※145ドルかかります。年々この料金も上昇しています。(これを済ませるとSTEP1,STEP2に合格した時点でCertificateが自動で国際郵便で送られてきます)

 

Ⅲ、オンライン公証

 

となります。また、別途卒業証明書や成績証明書、医学部の役員リストなどが必要になります。既卒の場合は提出物がやや異なる場合がありますのでご注意ください。

 

Ⅳ、受験料・コスト

・ECFMG Certificate の申し込み※145ドルかかります。

・受験料 14万円(受験費+書類の送料)

・問題集・参考書・映像授業等  10万円

 

したがって、登録から受験までで手続きと受験勉強で最低20万円は見積もった方がいいでしょう。

 

その他に書類の取り寄せ料や試験当日の旅費、宿泊費、滞在費がかかります。

STEP3は渡米費用もかかります。大きな費用がかかる試験ではありますが、これだけの費用をかけて勉強しない手はありません。

また、その価値も十分にある試験だと思います。

アメリカで医師として働くには

どの診療科を希望するか

もちろん、自身の専攻科に留学するでもいいでしょう。

また、視線を変えて「アメリカならではの医療」を吸収できる科もおすすめです。

特に心臓血管外科などは日本では経験できないような年齢のうちから積極的な実践トレーニングを行うことで有名です。

 

医局や研究室に所属している場合は、担当の教授に相談するのもよいでしょう。

また、勤務先の病院が提携していたりと情報を得られる場合もあります。

臨床留学か研究留学 どちらを選ぶか

いざ、アメリカで医学留学!となった場合、臨床留学を選ぶか、基礎研究留学を選ぶかで大きく変わってきます。

臨床留学は一般的に初期研修を終えて2~4年後、または臨床医としてしばらく経験を積んでから留学する場合が多いです。

一方研究留学は早ければ大学院生、ポスドクでの留学が多い傾向にあります。

 

留学期間も違い、臨床留学の場合、レジデンシーは3~5年、その後のフェローシップは1~4年が一般的です。

ただ、最近は留学期間終了後もそのままアメリカに滞在するケースも増えてきています。

 

研究留学は大学や医局の紹介が多いため、1~3年程度が一般的です。

実際、留学をしながら得られる報酬は臨床留学の場合5~6万ドルが相場と言われている一方、研究留学は報酬が出ない場合もあるなどマッチング先により様々です。

USMLEの勉強以外に準備した方がいいこと

アメリカ人医師とのコネクションを獲得する

アメリカ人医師からの推薦状はマッチングの際に大きな武器となります。

国内でその推薦状を得るには、沖縄や横須賀にある米軍基地内の病院で一定期間就労することも選択肢の一つでしょう。

英語の鍛錬にも大いに役立ちます。

履歴書充実のための英語論文、国際学会での実績

一つでも多くの国際的な実績があった方が有利です。

海外ジャーナルに投稿する、国際学会に参加・発表をした実績を積む、ということは日本にいても可能です。

国際学会はフリータイムに海外の著名な医師と直接話ができるチャンスでもあります。積極的に履歴書を充実させられるような実績を積み重ねましょう。

マッチングに有利なグリーンカードの取得

外国人の就労VISAを取得するのには多くのコストがかかります。マッチング先の負担となることも多いので、グリーンカードホルダーは採用に有利に働くでしょう。

上記以外にも、とにかく基本となる英語力の向上には日々取り組むことが絶対条件となります。

また、経済的な面を考え、留学資金を蓄える必要があります。

 

さらに数年、またはそれ以上アメリカに滞在する可能性がある場合、家庭との折り合いも大変重要です。

特に、子供の教育問題、実家の両親の介護なども絡む年齢で留学を検討中の方は家族からの理解もとても重要です。

 

自身のライフプランともよく照らし合わせ、綿密な調整と膨大なエネルギーが必要です。

おわりに ~外国人がアメリカで医師として働くということ~

日本の医療とアメリカの医療を比較することは一概にできません。

しかし、アメリカの医療には日本が不得手とする「ジェネラリスト」の育成機能が医師の能力としてのプログラムに組み込まれています。

知識、手技、診療を通じた自己研鑽、利他主義、患者の安全管理や病院・社会システムを理解し、医療管理や運営をする力、そのすべてが医学生から卒後研修の時期に徹底的に叩き込まれるのです。

 

卒業大学や所属ではなく、どれだけその中で実力をつけたかが医師個人への評価につながる点も日本とは一線を画しています。

完全なる実力主義の世界で、また、人種の壁を乗り越えながら、トレーニングを受けることはその後の医師人生において大きな財産になることは間違いありません。

 

 

記事執筆  医療ライター 田森裕